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一方その頃、聖地のある守護聖の私邸では……………
「ねえねえ、アンジェリーク!このドレスなんてどうかしら?色っぽい大人の女を演出できるわよ♪」
何故か居る神鳥の宇宙の女王が嬉々とした表情で、やはり何故か居る聖獣の宇宙の女王、アンジェリーク=コレットにドレスを選んでいた。
「え?えーっと……」
尊敬する先輩女王に勧められたのは、深すぎるほど深いスリットの入った黒いドレス。
そういった服装でも着こなしている神鳥の宇宙の補佐官、ロザリアならいざ知らず、アンジェリークはこれを着こなせる自信が全くと言っていい程無かった。
数週間前から今日のこの日の為に、執務を終えた後この邸に通って(半強制的に通わされて)色々と磨きをかけてきたとはいえ、やはり普段着慣れないタイプの服だと勇気がいる。
「陛下、それだとあの方には刺激が強すぎると思いますよー。こっちのワンピースだと、ふんわりしてて清楚な感じがしていいんじゃないかと………」
二人の女王に挟まれながらも自分の意見を口にするのはエトワールのエンジュ。
彼女もどこか楽しそうに赤い瞳を輝かせて、敬愛する聖獣の女王の為に服を選ぶ。
その服を見て、アンジェリーク当人よりも先に返答したのはロザリアだった。
「それだと私服と変わり映えがしないから……やっぱり私はドレスがいいと思うわよ?アンジェリーク」
エンジュは「なるほど〜」と素直に頷いて次の服を選び始める。
「いっそ陛下の時みたいに『アレ』を着るとか♪」
「それは……流石に……………」
レイチェルが悪戯っぽく笑いながら指差した先には、かつて金の髪の女王が恋人の誕生日に着たものと同じ服がかけられていた。
思わず笑顔のままで引きつるアンジェリーク。
はっきり言って今の状況を楽しんでいるのは、アンジェリークよりも他の女性陣に違いない。
「うーん……色々用意して貰ったけど、これだけあると迷うわよね〜」
勿論選ぶのは楽しいけど♪と続けながら、神鳥の女王は自分達が居る部屋を見渡す。
大きな部屋にはドレスに限らず、ずらりと様々なデザインの服が並べられている。
何故か着ぐるみやピエロの衣装まであったが、それはこの邸の主の趣味では無いだろう。
「ねえ、アンジェはどんな服が着たいの?」
流石にそろそろ着る服の系統だけでも決めないと、今後の予定に差し支える。
そう思ってレイチェルが女性陣の着せ替え人形と化している親友に尋ねてみると、アンジェリークはほんのりと頬を染めて俯き、ぽつりと呟いた。
それは小さな声だったが、その場にいる女の子たちの耳には十分聞き取れたようだ。
「ふーん…」
にやにやと笑うレイチェルに、アンジェリークはりんごのように真っ赤な顔になる。
その様子が可愛らしく思えて、大事な妹を見守る姉のような優しい眼差しで、神鳥の女王と補佐官はアンジェリークの意見を尊重する事にした。
「いいと思うわよ?女の子なら誰だって憧れるもの」
「そうそう。それに普段から似たような服は着ている訳だし、抵抗もそんなに無いわよね」
エンジュはというと、アンジェリークのその姿を想像して夢見るような瞳でうっとりしている。
「何だかルヴァ様が羨ましいですね。私が男だったら聖獣の陛下をお嫁さんに貰いたい位です!」
胸の前で両手を組んで潤んだ瞳でアンジェリークを見上げるエンジュに、レイチェルが反応する。
アンジェリークに横から抱きつくと、笑顔でエンジュにウインクをして言ってのける。
「ダメだよエンジュ。この子はワタシの大事なアンジェなんだからね♪」
「あーっっレイチェル様だけずるいですよ!」
エンジュは叫ぶとレイチェルとは反対側からアンジェリークに抱きつく。
これに慌てたのは抱きつかれた方で。
「ふ、二人ともちゃんと恋人いるんじゃ……」
両側から抱きつかれて、くすぐったいやら照れくさいやらで動揺しながら言うと、二人はにっこりと笑って『それはそれ、これはこれ(ですよ)』と、最後の部分以外は見事に声をハモらせてきっぱりと告げる。
(何だか私、今日は遊ばれっぱなしね……………)
そんな様子をくすくすと笑いながら見守っていた神鳥の女王と補佐官だったが、ふと部屋の時計を見ると既にお昼過ぎになっていたのに気付く。
「あら、もうこんな時間?そろそろお昼にしないとアンジェリークの身がもたないわね」
「それじゃあオリヴィエから今日は好きに使っていいと言われてるし、ここで頂く事にしましょう。ルヴァに見つかると元も子もないし」
その言葉にレイチェルとエンジュは腕を離したので、アンジェリークは内心ほっとした。
「そういえば、ここからルヴァ様のお邸って距離もありますけど、一体どうやって誤魔化すおつもりですか?」
レイチェルが最もな疑問を口にする。
ルヴァの私邸のある場所は王立図書館に最も近い位置にあるのだが、宮殿にもかなり近い。
オリヴィエの私邸で着替えてから移動するまでに、ルヴァに見つからないとは言い切れない。
すると金の髪の女王は、問題ないとばかりに満面の笑みで告げる。
「それなら守護聖全員に言ってあるから大丈夫よ♪ルヴァの足止めをするようにってね」
「ルヴァの邸に仕えてる者たちにも、ちゃんと言ってあるから安心して頂戴」
その説明を受けた三人は、驚いたまま固まってしまった。
(ルヴァ様の人望を褒めるべきか、このお二人の手腕を褒めるべきか、迷うトコロだね……)
そう考えたのはレイチェル。
(………ひょっとして、私もルヴァ様も、今日は皆のおもちゃにされてる?)
アンジェリークの考えは、あながち外れてはいないかもしれない。
あえて訂正するとすれば、『皆の』ではなく『一部の人の』だという事だろう。
(神鳥の陛下とロザリア様、かっこいいな〜)
妙に感心しているのはエンジュである。
こちらの準備も、着々と進んでいるようだ。
オリヴィエの邸でそのまま昼食を済ませた女性陣が、作業を再開すべく先ほどの衣裳部屋に戻って間もなくの事――
「あ!」
とレイチェルが突然大きな声を上げたので、その場にいた全員が驚いて彼女に注目した。
「どうしたんですか、レイチェル様?」
エンジュが赤い瞳をきょとんとさせて尋ねる。
「アンジェ、確かルヴァ様と執務後に逢うってお約束してたんだよね?」
「え?うん。そうだけど……あ!!ど、どうしよう……………」
アンジェリークも約束の事を思い出してようやくレイチェルが言わんとしている事を悟った。
執務後に逢う約束をしているという事は、その時間にルヴァが聖獣の宇宙の聖地を訪れるという事。
そうなったらアンジェリークが居ない事がすぐに分かってしまう。
彼と約束をしたのは一週間ほど前。その後執務で色々と忙しく、昨日の夜になって突如「明日は朝からオリヴィエ様のところで衣装合わせだよ」と言われた為、すっかり失念していたのだった。
アンジェリークは今まで約束を破った事は無かったし、守れない約束は初めからしない事にしていたが、よりにもよって大好きな彼との約束を破る事になろうとは……………
当然ながら、おろおろとうろたえ始めるアンジェリーク。
そんな彼女ににっこりと笑って姉の威厳のようなものを漂わせながら、ロザリアが助言する。
「落ち着いて。今日中に逢うのは確かなんだから、執務で予定より遅くなるってメールしたら?」
「辻褄合わせの為に、聖獣の守護聖にも動いてもらった方がいいかもね♪」
ロザリアの意見に横で頷きながら、金の髪のアンジェリークも同意する。
それに対して、消極的なのは栗色の髪のアンジェリークの方で。
「でも、私個人の都合に皆を付き合わせるのは……………」
と女王としてはある意味模範的ともいえる答え方で、やんわりと遠慮しようとしたのだが――
「大丈夫だって!今日は特別だって皆分かってるからさ♪」
胸をバンと叩いて保証するレイチェルに、「陛下もルヴァ様も日頃の行いがいいから、きっと皆様協力して下さると思いますよ」と、エンジュも明るく請け負う。
「それなら善は急げ、ね。早く連絡した方がいいわ」
エンジュとレイチェルとロザリアに、てきぱきと守護聖たちへの伝達事項を告げる先輩女王に、「陛下……どうしてそんなに楽しそうなんですか?」と、アンジェリークは至極もっともな疑問をぶつける。
妙に生き生きとしているように見えるのは、決して気のせいではないだろう………
「だってこんな機会でもなければ、こんな大人数動く事がないでしょ?それに……………っと危ない危ない」
金の髪の女王は、うっかり口を滑らせそうになって、慌てて手を口元にやる。
――これは、ルヴァに深く感謝しながらも、それを上手く表現できずにいる某守護聖たっての願い。
くれぐれも本人たちには絶対に秘密にしておくようにと、固く約束した事。
慌てて口止めをする彼の姿を鮮明に思い出し、くすっと小さく微笑む。
それを見てアンジェリーク――栗色の髪の妹分は首を傾げたが、これだけは教えられない。
「何でもないわ。さあ、早く服を選ばないとね♪その後で小物類と髪型、メイクも待ってる事だし」
「は、はい……」
(3)に続く
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