―ルヴァ様のお誕生日を祝おう!の巻―

(1)

ルヴァはそわそわとどこか落ち着かない様子で、しかし着実に執務をこなしている。
本日の執務の量は普段より格段に少ないのに、彼が落ち着かない理由――
それは、今日の執務の後で恋人と逢う約束をしている為だ。
恋人とは、そう頻繁に逢える立場ではないから尚更待ち遠しい…といったところだろう。
そんな彼は、今日が何の日かを忘れていた。
彼女も彼を驚かせる為に、今日が何月何日でどんな日なのか教えなかった。
執務の量が珍しく少なかった訳も、その辺にあるのだという事も完全に失念していたのだった。


昼前に今日の執務を全て終え、恋人が執務を終わらせると予想される時間までどう過ごそうかと考えているルヴァの執務室の扉をノックする者がいた。

「ルヴァ様ーっ俺です、ランディです。入りますよ」
「今日もあなたは元気そうですね、ランディ。今日はどうしたんですか?」

ランディは申し訳なさそうな顔で言った。
「俺、色々考えてたんですけど…どうにもいいプレゼントが思いつかなかったんです。だから今日はルヴァ様のお部屋の本の片付けをお手伝いさせて下さい!!」
真剣な顔で頼み込んでくるランディに対し、はて…?と首を傾げるルヴァ。
「えーと…本の片付けを手伝ってくれるのは嬉しいんですけど、プレゼントとは………?」
その言葉にランディが「ええ?!」と声を上げて驚く。

「だって今日は…もがもが………」
「ハーイ、そこまで。まだ教えちゃダメだよランディ。びっくりさせるつもりなんだからさ〜」

いつの間に入ってきたのか、突如現れたオリヴィエが後ろからランディの口を手で塞いだ。
「ほひひへはふぁ、ふぁかりはしはははははひへふははい!」
口を塞がれたランディの今の言葉を分かりやすく言うと、『オリヴィエ様、わかりましたから離して下さい!』だ。
意味は通じたらしく、オリヴィエはランディを解放する。

「えーと…」

急な展開で戸惑うルヴァに、オリヴィエはけろりとした顔で告げた。
「ああ、こっちの話。そうそう、マルセルとリュミちゃんが一緒にお昼を食べようってさ。それでワタシがあんたたちを誘いに来たんだよ」
「ああ、そうでしたか〜。それじゃあランディ、本の整理は後日お願いしますねー」
「はい!任せといて下さい」



ルヴァがオリヴィエ、ランディと共にリュミエールの私邸に着くと、よく手入れされた庭の方へと案内された。
そこにはマルセルとリュミエールの他に、セイラン、フランシス、クラヴィスの姿があった。

「ああ、こんにちは。ルヴァ様もいらしたのですね」

椅子に腰掛けていたフランシスはルヴァの姿を確認するなり、立ち上がって優雅な仕草で挨拶をする。
ルヴァもにこにこと返事をする。
「こんにちはフランシス。今日はいいお天気ですね〜」

空は青く透き通っていて、庭の噴水の水飛沫が陽射しを受けてきらきらと輝いている。

「クラヴィス、アンタも来てたんだ〜。感心感心☆」

オリヴィエが、フランシスとリュミエールの間に座る神鳥の宇宙の闇の守護聖の姿を認め、うんうんと頷く。
クラヴィスはフッ…と笑ったかと思うと、静かな声で返答した。

「たまには、な……………」
「偶然クラヴィス様と森でお会いしたら、そこへリュミエール様がいらしたんですよ。今日はおかげで良い詩が書けそうだ」
そう言うのはセイラン。
彼は料理が来るまで噴水の方をじっと見つめ、手元のノートに何やら書いている途中だ。

「セイランさんはね、チュピを探しに行ってくれてたんですよ」
マルセルが青い小鳥を肩に乗せて、嬉しそうに説明する。

リュミエールがクラヴィスも昼食に誘おうと探しに行ったところで、チュピがいなくなっているのに気付いたマルセルは偶然セイランに会い、一緒に探していたところクラヴィスがチュピを連れている所へ遭遇。
そこへリュミエールがやってきて、セイランも昼食に誘われた……という事らしい。
ちなみにフランシスは今日、リュミエールの絵を見せて貰う約束をしていたそうな。


楽しそうに微笑みながら、ルヴァはうんうんと相槌を打つ。
「皆で食べるご飯は美味しいですからねー」


皆が席に着いたところへ料理が運ばれてきた。
ハーブをふんだんに使った料理の数々は、彩りもよく考えられていて、美味しそうだ。
焼き立てのパンからは、香ばしいゴマの香りが漂ってくる。
「さあ、どうぞ」
リュミエールが聖母を思わせる微笑で促すと、ランディが嬉しそうにパンに手を伸ばす。
「ありがとうございます、リュミエール様。頂きます!」
「ふふ…ランディってばよっぽどお腹空いてたの?」
彼の気持ちの良い程の食べっぷりに、マルセルもつられてパンに手を伸ばした。

「ああ、そうだ。マルセルに頼もうと思ってた事だけど、ランディにも手伝って貰おうかな」
その言葉にぴくりと反応したセイランは、オリヴィエに向かってやや引きつった顔を向ける。
「まさか……………今回もアレをするんですか、オリヴィエ様?」
「おや、セイランは何か思い当たる事でもあるんですかー?」

ルヴァが首を傾げて尋ねると、セイランは言いにくそうに「ええ…まあ」とだけ答える。
オリヴィエはというと、何やら企んでいるような不敵な笑みで返す。

「そうそう、ア・レ☆ワタシの方の準備はできてるからさ、セイランにも手伝って貰うよ」
「どうして僕まで…」

するとオリヴィエはセイランに近づいて耳打ちする。ルヴァに聴かれない様にこっそりと。

「アンタだってルヴァには世話になってんでしょ?流石に今回はあの二人だし、アンタの時みたいな格好をあのコにさせるワケないじゃなーい☆」

心底楽しそうに笑うオリヴィエの言葉に、セイランはかつて自分がされた時の事を思い出す。

「まさか、あれはオリヴィエ様の指図だったんですか?」
「あれは本人がアンタの度肝を抜く為に選んだんだよ。ワタシはノータッチ」

セイランは大きくため息を吐きながら、ルヴァに起こるであろう事を予想してある意味同情した。
ちらりとルヴァの方を見ると、彼はフランシスに何か質問を受けたらしく嬉しそうに答えている。

「そういえば、フランシスの時はどうだったんですか?」

確か彼の恋人は……と、セイランは女性陣の中から一人の少女の顔を思い描く。

「んー…あの時はまだ付き合ってなかったみたいだからねぇ……次の機会にやるつもり♪」

おそらく女性陣の恋人たちはもれなく、自分と同じ洗礼を受ける事になるのだろう。
他の女性たちの恋人の顔をそれぞれ思い浮かべながら、セイランは再びため息を吐く。

「………やれやれ。きっとルヴァ様は慌てふためくでしょうね」
そんな光景がありありと浮かんでくる。何故ならセイラン自身がそうだったから。
おそらく一番今日という日を楽しんでいるのは、誕生日を迎えるルヴァ自身よりもむしろ女性陣とオリヴィエなのだろう……とそんな事を思いながら。



ルヴァにまだ知られる訳にはいかない内緒話をしている二人のところへ、皆より一足先に昼食を終えたランディがやってきた。

「オリヴィエ様、先ほどおっしゃってた手伝って欲しい事って何ですか?」
「丁度いいトコロへ来たね、ランディ。ちょっと耳貸して……ゴニョゴニョ」
ランディの耳元に手を当てて用件を伝える。
「えっっ!!本気ですか?!!」
オリヴィエからの頼みに、ランディは思わず大きな声を上げる。
その声にルヴァが驚いて視線を向けてくる。
「ど、どうかしましたかランディ?!」
ランディが慌てて「なっ何でもありません!!」と答えながらルヴァたちの方に目を向けると、その横でマルセル、リュミエール、フランシスは訳知り顔に苦笑いを浮かべている。
どうやら三人には既に聞かされているようだ。
クラヴィスも小さく笑っているのを見る限り、知っているらしい。

「アンタがルヴァと一緒にいるとこっちの計画までバレちゃいそうだからさ、だからヴィクトール達の手伝いに回ってよ」
オリヴィエがウインクしながら小声でランディに言う。
「わ、分かりました」
ランディも極力声を抑えて頷いた。

(でもこれって、守護聖全員でルヴァ様を罠に嵌めるって事なんじゃないのかな〜)

ランディは少し良心を痛めつつも、ルヴァを喜ばせる為自分にできる事をしようと決意した。
実際には守護聖だけではなく、両宇宙の女王と補佐官、アリオスとエンジュも含まれていたが――知らぬはルヴァ本人ばかりなり……………

(2)に続く