―指輪をはめて―

アルカディアに呼ばれてから何十日も経ったある日の事。
黄色い屋根の宮殿内の自分の部屋で、アンジェリークはソファに座ったまま、深緑色をしたビロード張りの小箱を見つめて「うーん…」と小さく唸っている。
悩んでいるのは、つい先日想いを通わせた相手がさりげなくテーブルの上に置いていった小箱の中身について。

入っていたのは、上品な指輪だった。
贈られた時は本当に嬉しくて心ときめかせたのだが、雪祈祭の時にプレゼントされた青緑色のペンダントと違い、どちらの手に嵌めたものか悩んでしまったのだ。
ちなみに指輪のサイズは彼女の薬指に合わせてあるようで、左右両方で試してみたところいずれもピタリと嵌まった。

「はぁ……やっぱりルヴァ様に、思い切ってお聞きしてみようっと」

悩んだ挙句、小箱をお出かけ用の手提げカバンに入れて呟いた直後。
コンコンコン、と扉を叩く乾いた音が聞こえてきた。
来訪者を確認してみると、彼女が先程会いに行こうとしていた地の守護聖本人だった為、扉を開けて出迎える。

「ルヴァ様、こんにちは!」
「こんにちは、アンジェ。今日は良いお天気ですし、私と一緒にどこかへ出かけませんかー?」

両思いになってまださほど経っていない気恥ずかしさからか、照れくさそうに笑う想い人。
その誘いに、アンジェリークは迷う事無く即答した。

「喜んでご一緒させて下さい」

アンジェリークは指輪の箱が入った手提げカバンを持って、ルヴァと共に部屋を後にする。



二人は約束の地へとやってきたが、指輪の事を言うきっかけが掴めないまま、時間はあっという間に過ぎていく。

「おや、もう陽が傾きはじめていますねぇ」

名残惜しげな彼の言葉にアンジェリークが西の空を見ると、白い雲がピンク色に染まり始めていた。
そろそろ戻らねばならない時間だ。
アンジェリークは勇気を出して、手提げカバンから小箱を取り出して口を開く。

「あのっルヴァ様!」
「はい?」
「この前一緒にお出かけした日、帰り際にこの指輪を置いていって下さったでしょう?」
「ええ。気に入って頂けましたかー?」

彼女が持つ小箱を見たルヴァは、少し心配そうに問い返してきた。
アンジェリークは嬉しくなって、満面の笑みで答える。

「はい!ありがとうございます。私本当に本当に、嬉しかったです!」
「ああ、それは良かったです。見ている内に、きっと貴女に似合うだろうなーと思ったら、気がつくと買っちゃってたんですよー。ふふ…」
「ルヴァ様ったら……♥それで、あの…この指輪の事で、どうしてもルヴァ様にお聞きしたい事があって持ってきたんです」

もじもじと頬を染めて話すアンジェリークを見て、ルヴァの胸に愛しさが込み上げてくる。
そこからなかなか言い出せない想い人に、言葉の続きを促す。

「言って下さい、アンジェ。私は本以外の贈り物をした事が無いので、実はずっと気になっていたんですよー」

そのルヴァの言葉に後押しされ、アンジェリークは一息に言った。

「こっこの指輪、どっちの手に嵌めたらいいんですかっっ?!」
「……………え?」
「ルヴァ様はご存知ないかもしれませんけど……女の子にとって、好きな人から貰う指輪って特別なんですよ?だから、左手の薬指に嵌めていいのか、右の薬指の方がいいのか、ずっと悩んでたんですから!」
「あー…そういう事だったんですね〜」

アンジェリークの説明から、彼女が今日のデート中ずっと指輪を嵌めていない理由を察したルヴァは苦笑を浮かべる。
彼女が言う事も、もっともだった。
ならば―――…
アンジェリークから深緑色の小箱を受け取ったルヴァは、指輪を取り出して告げた。

「それじゃあ、私がその指輪を嵌めましょう。両手を出して、目を閉じていて下さいねー」
「は、はい…」

彼の言うままに目を閉じて両手を差し出す彼女の艶やかな栗色の髪をそっと撫でてから、ルヴァは彼女の左手を取ると、躊躇う事無く薬指に指輪を嵌めた。

「ルヴァ様…」

目を開けるアンジェリークに極上の笑みで応え、静かな声音で言った。
「これが偽る事の無い私の気持ちですよ、アンジェ」

アンジェリークが嬉しさのあまり何も言えずにいると、ルヴァは先程指輪を嵌めた彼女の左手の薬指に、そっと口付ける。

「!」

彼の唇の温もりを感じ、アンジェリークは体の芯から温かい幸福感が湧き上がる心地がした。
潤んだ瞳で見つめる彼女の艶を帯びた愛らしい表情に、ルヴァは満足そうに微笑む。

「ふふ、あんまり遅くなると明日に響きますから、そろそろ帰りましょうか。送っていきますよー」
「はい……」

手を繋いで夕焼けに染まっていく草原を後にした二人の後方の空には、一番星が二人の恋路を祝福するように輝き始めていた――


-Fin-

〜後書きという名の言い訳〜
トロワで恋愛段階2段階目のイベントに成功して、次の日の曜日かその次の日の曜日にそのお相手とデートをすると、さり気なく指輪がもらえますよねv
あのシチュエーションで貰ったら、左手につけたいけど右の方がいいのかしら??とか悩んだりしないかなーと思いました。
ハートがちゃんと表示されてると良いのですが…凄く不安です(^^;)

2007.8.3 UP

ここまで読んで下さってありがとうございます

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