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「ニクスさん、お土産ですよ」
そう言ってフルールの村人からの依頼を終えて帰ってきたアンジェリークが、ニクスに手渡したもの。
それは、蓮華草の小さな花束だった。
首を傾げる彼に、アンジェリークは笑いながら説明した。
今日の依頼が早く終わった事、村の幼い少女たちに一緒に遊ぼうと誘われて仲良く蓮華草で花冠を作った事など――
「なるほど…。私も花冠をつけた貴女を見てみたかったですね。きっと、この花のように愛らしかったのでしょう」
受け取った花束を小さなガラスのコップに生けるニクスの言葉に、アンジェリークは顔を赤らめながら睨んでくる。
「ニクスさんってば……からかわないで下さい」
「おやおや…信用がありませんね。私は至って真剣ですが?」
くすくす笑いながら言っても説得力は無い。
アンジェリークは頬を膨れさせてそっぽを向いてしまった。
「ああ、怒らないで。可愛らしい花束をありがとうございます、アンジェリーク。お礼と言っては何ですが、貴女がお留守の間に新しいお茶が届いたのですよ。一緒に如何ですか?」
――勿論、先日貴女が気に入って下さった焼き菓子の用意も整えてありますから…と付け加えるのを忘れずに。
その誘惑に抗えなかったのか、はたまたいつまでも拗ねるのが子供っぽいと恥じたのか、アンジェリークは苦笑いを浮かべてニクスの方に振り向いた。
「それじゃあ、お言葉に甘えてご馳走になります。もうからかったりしないで下さいね?」
「ふふ…貴女をからかってはいませんが、そういう事にしておきましょう」
大人の余裕でニクスは応えると、お茶の用意を始める。
するとアンジェリークが思い出したように「あっ」と声を上げた。
「どうしました、アンジェリーク?」
「もう一つ、お土産があったんです。すぐ戻ってきますから、そのままで待っていて下さいね!」
慌ててパタパタと部屋を出て行くアンジェリークの背中を見送り、ニクスは微笑む。
「私にとって、貴女を待つ時間は苦にはなり得ませんよ。アンジェリーク……」
どこか寂しそうな微笑で、ぽつりと呟く。その呟きを聞く者は、誰もいない。
ご存知ですか?貴女の下さった、蓮華草の意味する花言葉を………
貴女と過ごす時間は、ゆっくりと私の傷を癒していくのです。
まるで、蕾が温かさでゆっくりと花開くように………………
パタパタパタ………
軽やかな足音が段々と近づいてくる。アンジェリークの足音だ。
「ニクスさん、お待たせしました!これを取りに行ってたんです」
慌ただしく戻ってきた彼女がその手に持っていたのは、彼女の手に丁度良い大きさの瓶だ。
その中には、トロリとした琥珀色の液体が入っている。
「蓮華草の花の蜂蜜です。村の人のオススメなんですって。今日はお砂糖の代わりにこれで頂きませんか?」
「そうですね。あの村の蜂蜜も、なかなか美味しいと聞いています。これで頂きましょう」
ニクスが快く了承すると、アンジェリークは花のような笑顔を見せた。
「今日は他にも色んな事があったんです。聞いてくださいます?」
「勿論ですよ。今度依頼があった時は、私も同行させて頂けるなら……………ね?」
アンジェリークに返事を返しながらティーポットにお湯を注ぎ、数分ほどお茶の葉を蒸らして、紅茶の味と香りを抽出する。
ニクスの一連の動作は貴族という事もあるのだろうが、洗練されていてそれ自体が一つの儀式にも見える。
「さあ、お茶が入りましたよ」
彼の言葉で、アンジェリークは自分が見蕩れていた事に気付く。ほんのり頬が熱くなっているのが感じられた。
「あっすみません、ぼーっとしてて。頂きます」
慌てて紅茶の入ったカップを受け取り、蜂蜜を入れてゆっくりと香りと味を楽しむ。
蜂蜜を入れると紅茶は少し黒くなったが、砂糖を入れた時とはまた異なる味わいがある。
ニクスの反応が気になって見てみると、彼もアンジェリークと同じ意見だったようだ。
彼女と目が合うと、にっこりと優雅な微笑を向けてニクスが言った。
「本当に美味しいですね、この蜂蜜は。ジェイドにも後で試してもらいましょう。きっと美味しいお菓子を作ってくれますよ」
「ふふっどんなお菓子になるのか、今から楽しみです」
二人きりのお茶会は、まだ始まったばかり………
蓮華草の意味する花言葉は、『あなたは私の苦しみを和らげる』――
私は願う。貴女にとってもこの時間が、苦しみを和らげるものであるように……………と
-Fin-
Web拍手お礼SSニクアン話です。丁度田んぼに蓮華草が咲いてたので思いついたネタですね。
大切な人とのとりとめも無い時間に癒されるニクスさんの心情が出てるといいんですが。
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