―雨の休日の過ごし方―

灰色に曇った空から、サアァァァァァ…と音を立てながら落ちてくる水滴。
昨日の夜から振り続けているこの雨のおかげで、休日なのに今日は外出もままならない。
その空模様を、うーん…と唸りながら眺めている青年が一人。

「この雨だと、今日は来てくれないかもしれませんねぇ……」

ため息混じりに呟く青年は、この宇宙の女王に仕える九人の守護聖の一人。地の守護聖・ルヴァである。

彼は別に雨が嫌いというわけではない。
むしろ砂漠の惑星出身なので、どちらかと言えばプラスのイメージがあるほどだ。
誰も訪ねて来なければ、おそらく一日中大好きな本に囲まれて過ごしているだろう。
本に集中していれば、雨だろうと晴れだろうと関係ないのだ。室内であれば。
そんな彼にしては珍しく、憂鬱そうな顔をしていた。
「約束をしていた訳でもありませんし……今日はもう家に帰って読書でもしましょうか」

コンコンッ

そろそろ帰ろうと決めたところへ、彼の執務室の扉をノックする音が聞こえてきた。

「どうぞ、開いてますよー」
扉の向こうに呼びかけながら、ルヴァは少しどきどきしていた。
――できることなら、彼女であって欲しい……

その祈りが通じたのか、入って来たのは彼が会いたいと願っていた少女。
現在この聖地で、新しく生まれたばかりの宇宙の女王となるべく、もう一人の候補者と共に試験を受けている栗色の髪の少女―アンジェリークだ。
彼女は持参した紙袋から本を取り出して挨拶した。

「おはようございます、ルヴァ様。先日貸して頂いた本をお返ししに伺いました」
雨でも変わらぬアンジェリークの可愛らしい笑顔と明るい挨拶に、ルヴァの方も笑みが零れる。
「おはようございます。随分早いですけど、もう読み終わったんですかー?」

本をルヴァに返しながら、アンジェリークは頷いて感想を述べ始めた。
「はい!この本は気候の違いで色んな文化が出来るって事が、具体的例を挙げて解説してあるんですね」

ルヴァがアンジェリークに貸した本は、気候と文化の密接な関係について分かりやすく解説した本だ。
この宇宙には、様々な気候や文化を持つ多くの惑星が存在する。
文化の違いは、人々の物の考え方にも大きな影響を与えるものだ。
宇宙、ひいてはいずれそこに住むであろう人々を導く女王となるかどうかはこれからの彼女次第だが、知っていて困る事はない。
アンジェリークが様々な文化に興味を持っていると聞いて、それならばと入門書として選んでおいたものだった。
彼女の感想を聞いたルヴァは、本当に嬉しそうに満面の笑みを向ける。

「うんうん。嬉しいですねぇ……。貴女が熱心に読んで感想を言ってくれると、私も本を選んだ甲斐がありますよー。貴女は本当に向学心がありますね。良い事だと思いますよー。これからも自分のペースで続けていって下さいねー」

褒められてアンジェリークは少し頬を染め、やはり嬉しそうに笑って応える。
「ふふっルヴァ様が選んで下さった本が合ってたんです。ありがとうございました」
「いえいえ。他にも読みたい本や知りたい事があれば、遠慮せずに言って下さいねー?」

返って来た本を元の場所に戻しながらアンジェリークと話すルヴァの声は、どこか弾んでいた。
その背中に、おずおずと彼女の声がかかる。

「えっと…その、ルヴァ様はこれからご用事とかありますか?さっきの本を読んでて、もう少し知りたい事があるんですけど……」

今日の用事は特に無い。何より『知りたい』と望むアンジェリークの手助けが出来る事が、今は最大の喜びなのだから………

「今日は特に用事もありませんよー。どんな事が知りたいですか?一緒に本を選びましょう」
本棚の前で振り向いて微笑むルヴァの姿と声に安心したのか、アンジェリークが嬉しそうに駆け寄ってくる。

「えっと、服装や食べ物に関しての本をお願いします」
「分かりました。でもその本は執務室にも隣の私室にも置いてませんから、一度家に帰らないといけませんねー。もしお時間があるなら、貴女も一緒にいらっしゃいますか?」

今日が雨とはいえ、彼女が既に他の誰かと約束しているかもしれないと思いながらも、ルヴァは尋ねる。
するとアンジェリークはにっこりと、雨が上がって雲の切れ間から覗く太陽を思わせる笑顔で返事を返してきた。

「喜んで。ご一緒させて下さい」
「ふふ。貴女の知りたい内容の本だけでも結構ありますから、きっと合う本が見つかると思いますよー。それでは参りましょうか、アンジェリーク」
「はい!」

ルヴァと一緒に執務室を出て彼の邸に向かうアンジェリークの表情は、どこか楽しそうだ。
彼はまだ知らない。彼女もまた、ルヴァに会いたいと思っていた事を。
そして――本の話をする時に彼がする満面の笑みを、どれだけアンジェリークが好きかという事も。


雨の日の過ごし方は人それぞれ様々だけど、自分に合った本を探して読みふける日にするのも悪くない。
耳に優しく響く雨の音に誘われて、いつもより本の世界を知る事ができるかもしれないから。
そして……………一緒にいる人の、思いがけない一面を発見できるかもしれないから。


-Fin-


〜後書き〜
お題部屋の「笑顔を見せて」と対になる「雨の休日の過ごし方」です。Web拍手お礼SSでした。
結局晴れても雨でも関係なく、この二人は仲が良いという事ですねv
もしルヴァ様が地理や歴史の先生だったなら、高校時代の成績はもっと良かったと思います(笑)
それこそ必死で分からないところ探して質問しまくったでしょう。

ここまで読んで下さってありがとうございます

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