―裏切りの口づけ―

我に返ったときには、既に口づけていた。
あの、残虐で皮肉屋で、目的の為なら手段を選ばない――――狂気の天才に。

「貴女が私に口付けるとは思ってもみませんでしたよ。一体どういう風の吹き回しですか?」

慌てて離れると、奴が妖艶な笑みを浮かべてずれた眼鏡を直す。
――どこまでも憎たらしい。食えない、油断のならない男だ。

…………………………でも。
口づけた瞬間、今までに無いほど驚愕の表情をしていたのを見逃さなかった。
本当に、私から口づけられるとは思ってもみなかったのだろう。
――私と同じ姿のホムンクルスには不届きな真似をしていたくせに。
自分でもどうしてあんな事をしたのか分からなかった。
それでも、奴の驚く顔が見れたのが……………嬉しかった。

「お前の驚く顔が見たかっただけだと言ったら、どうする?」
わざと挑発してみると、冷ややかな紫の瞳が真っ直ぐに私を射る。

「それはそれは………女神ともあろう方が随分と淫らになったものですね?」

あくまで余裕の表情を崩さず、低く響く声で反撃してくる。
『そんな事を言うお前の方が余程、その瞳に卑猥な色を滲ませているだろうが』
ぼんやりと思った。
以前の私なら、そんな事を言われれば神に対する冒涜だと、怒りを露にしただろう。
変わってしまったのは、何故?
どうしてこんな男に構っているのだろう?
――いつも答は出ないまま、いつの間にか忘れてしまう疑問。

「……………貴女に教えて差し上げましょうか、ヴァルキュリア?」

ぐいっと、魔術師にしては強い力で引き寄せられ、奴の整った顔が間近に迫る。
そして、目が合う。
くす…と、奴が穏やかな顔で笑った。
――とても『あの』レザード・ヴァレスとは思えない、真人間に見える笑顔だった。

「私を本気で誘うつもりなら、あんなキスでは足りませんよ」

……………やっぱりいつものレザードだ。
いつの間にか奴の腕はしっかりと腰に回されていて、逃げ出せなくなっていた。

「足りなかったら、どうすると?」
半ばやけになって尋ねる。どうせ逃げられはしないのだから――

「随分ご機嫌ななめですね。何か嫌な事でもありましたか?」
分かっているのに、こういう時だけとぼける。
こいつはこういう奴だった……………

答えられないまま大きくため息を吐くと、顎に手が添えられて、上を向かされた。
そのまま深く、口づけられる。

これは女神である自分自身に対する、裏切り。
神の領域に踏み込もうとする、屍霊術に長けた狂える魔術師に惹かれた事も。
そんな男と口づけを交わす様になってしまった事も。

しばらくして解放された時には、私の息は上がってしまっていた。

「貴女がこのキスに応えられる様になったら、その時は……………」

眼鏡にいつもの動作で手をやりながら、奴が言う。

「この世界を滅ぼしてでも、貴女を手に入れてみせます」
その表情は、邪気があり過ぎてかえって無垢に見える程の、満面の笑みだった。


-End-


ヴァルキリープロファイルのシルメリア編でレザードが登場するという事で、嬉しさの余り浮かんだネタです。
レザードさん、酷い言われようですが、事実だし。日頃の行い悪過ぎるし(爆←本当にファンなのか?)
取り扱いジャンルにVP入ってないですが、アンジェで「裏切りの口づけ」のネタは思い浮かびませんでした(^^;)

ここまで読んでくださってありがとうございました

ブラウザバックでお戻りください