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ニクスさんが最近よく地上に行くようになった。
他の事は補佐官としても恋人としても、ちゃんと話してくれるのに、頻繁に地上を訪れる理由や行き先を訊いてもはぐらかすばかりで、全然説明してくれない。
二人きりのプライベートな時間に、私を抱き寄せたまま優しい微笑みを湛えて彼は言った。
「アンジェリーク。明日から三日間ほど地上へ行きたいのですが………」
彼が淹れてくれたアイスティーで喉を潤してから、私はいつもの様に尋ねてみた。
訊いてもすんなり答えてくれるような人ではないと、分かってはいるけれど――
「どんなご用事ですか?」
声が僅かに震えてしまったのを、ニクスさんは気付いたかしら――?
今回も思った通り、「いずれ貴女にもお話しますよ」としか答えてはくれなかった。
しつこく質問して嫌われたくなくて、それ以上追求できなかった。
あともう一言が言えない事を、一人きりの部屋で、私はいつも後悔する。
そうして直接言えない想いが心の底に溜まっていく度、彼の温もりが恋しくなる度、私は彼の部屋のベッドに潜る。
顔を埋めたシーツからは、彼が好んで使っている香水の香りがした。
身の回りの世話をして下さってる女官の皆さんにお願いして、彼が留守にしている間は、彼のベッドのシーツを取り替えずにいて貰っていたから。
ベッドの上に寝転がったままニクスさんの残り香に包まれて、窓から薄いカーテンを通して月の光が部屋に差し込むのを、ぼんやりと眺めていた。
いつからだろう、ニクスさんが頻繁に地上へ行くようになったのは……
あの後責任を取ってヨルゴさんが財団理事の座を、レインに譲った頃からかもしれない。
勿論女王の力を持ってすれば、地上でのニクスさんの行動を知る事も可能だけど。
でも……そうはしたくなかった。
それは彼を信じていないという事だと思うから。
普通の人と違う時間の流れを生きるという意味を誰よりも理解している彼が、私と一緒に生きると選んでくれた……それが何よりの、彼の想いの証明だから。
裏切りたくなかった。彼との間に、溝を作りたくなかった。
………それでも、最近気がついた事があった。
私にとって初めての相手はニクスさんだけど、彼にとっての初めてが、私じゃない事に――
今まではとにかく恥ずかしくて、慣れてなくて、気付く余裕すら無かったけれど。
そして今のニクスさんは、私だけを愛してくれていると、分かってはいるのに。
――かつて彼の腕に抱かれた、顔も知らない相手に嫉妬してしまうなんて……………
「ニクスさん………」
堪え切れずに、涙と一緒に出た呟きを聞く人は誰もいない。
私は抑えるのを止めて、心のまま泣いてしまう事にした。
――この部屋の主の許可無く入れるのは、私だけだから………
彼に恋をするまで、恋というものがどんなものか全然知らなかった。
今は遠く離れた親友たちが以前勉強漬けの私にくれた恋愛小説では、知りようが無かった。
『恋をすると人は綺麗になる』って言う位だから――もっと、綺麗な感情だと思ってた。
私にここまで激しい感情があるなんて、思いもよらなかったの………
いつの間にか泣き疲れて眠ってしまっていたのか、体を起こして窓から夜空を見上げると、最後に見た時よりも大分月が西の方へ傾いているのが見えた。
一しきり泣いたら、何だかすっきりした。
明日になれば、ニクスさんが帰ってくるだろう。
そうしたら、訊けずにいた事を、思い切って訊いてしまおう。
私に、最も綺麗な感情と最も醜い感情を同時に教えたのは、他ならぬ貴方だから――
-Fin-
〜後書き〜
聖地女王恋愛ED(ニクスED2ともいう)後という設定です。ちなみにニクスさんの名誉の為に言いますが、彼は浮気してません、念のため。
彼が頻繁に地上へ降りてる理由については考えてあるんですが、今回はアンジェの独白という形なので出てません。
私はどうしても、ニクスさんにとっての初めての相手はアンジェでは無さそうだと思ってしまったので出たネタです(汗)
その分優しくアンジェをリードしたでしょうけれど、過去の女に嫉妬してしまうのではなかろうかと(^^;)
私は、本気で好きなら嫉妬や独占欲はあって当然だと思います。縛り付けずに余裕で居られるのは遊びもしくは甘えだと思いますので……本当に「醜い」とは思いませんし、思えない。
ただ、アンジェは16歳でどこか潔癖なところがあるといいますか、心も体もまだ「少女」なので。
ニクスさんの為に、精神的にも「大人の女性」になろうとしてる……というのを書きたかったのですよ。 |