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それは、聖獣の宇宙が創世の危機を脱してから間もなくの、ある日のこと……
その日、エンジュは守護聖達からサクリアの拝受を済ませた後、聖獣の宮殿の中庭の一つに来ていた。
前に密かに想いを寄せている守護聖が話してくれた、宮殿の美しい中庭をじっくりと眺めてみたいと思った為だ。
この宮殿には全部で五つの中庭がある為、一日中居ても飽きる事がないらしい。 想い人が言うには、丁度白の中庭で美しい花が咲いているのだそうで。
本当は彼と一緒に見たかったが、彼はここ数日辺境惑星の視察に出かけて不在だった。
彼が戻る頃には散ってしまっているだろうから、その前に一人ででもしっかり見ておこうと思ったのだ。
「綺麗………あの方がおっしゃった通りだわ」
桜に似た白く可憐な花をつけた樹から、はらはらと雪のような花弁が舞い落ちる。
樹の周辺には、やはり雪が積もったように花弁が降り積もっていて、気候が安定した聖地の中にあってなお、雪景色を彷彿とさせる。
どれ程その場所に居ただろうか。
今度は想い人と見ようと心に決め、エンジュが白の中庭を立ち去ろうとしたその時、後方から二人分の足音が聞こえてきた。
(あれは…陛下とルヴァ様?)
ピンク色のドレスに身を包んだ聖獣の女王陛下と、頭にターバンを巻いている神鳥の地の守護聖の姿を、見間違うはずもない。
彼女の立っている位置は二人からは物陰に隠れて見えない為、彼らはエンジュに気がついていないようだった。
挨拶をすべきかどうか迷っている間に、二人は先程彼女が見ていた樹の側まで近づいてくる。
「そこは段差になってますから、足元に気をつけてくださいねー」
ほっそりとした手を取って聖獣の女王をエスコートするルヴァの声が、心なしか弾んでいるように聞こえる。
「ありがとうございます、ルヴァ様」
応える女王も、大きな青緑色の瞳を幸せそうに細めて彼を見ている。
二人の様子が本当に幸せそうで、周りの雰囲気まで穏やかになっていくようで、エンジュは目が離せなくなっていた。
聖獣の女王もルヴァも、相変わらず立ち尽くすエンジュに気付かぬまま、話し続ける。
話の内容は、エトワール―つまりエンジュ―の働きぶりに関するものだった。
見つかってはまずいと思ったエンジュは、今から立ち去っても見つかってしまうだろうからと、慌てて身を潜める。
「……本当に、エトワールには感謝しなくてはいけませんねー」
「ええ。彼女のおかげで、この宇宙の沢山の命が救われました」
(陛下もルヴァ様も、私の事をそんな風に思ってくださってたんだ…)
物陰に隠れているエンジュは、静かに感動していた。
彼女は優しい微笑みを絶やさない聖獣の女王が大好きだったし、使命の事で悩んでいた時に色々と相談に乗ってくれた神鳥の地の守護聖を尊敬していた。
これからも頑張るぞと決意を新たにした彼女に気付かぬまま、二人は言葉を交わす。
「あなたがこうして私の隣で微笑んでいてくれて、私は本当に一番の幸せ者ですよ………アンジェ。二つの宇宙とアルカディア、全てを足しても…ね」
「それは私も同じ気持ちです、ルヴァ様…」
彼らの口から紡がれる愛の言葉に、エンジュは何だかしんみりして聞き入ってしまう。
見たわけではないが、二人はきっと見つめ合っているのだろう。
そう思った途端、何だか申し訳ない気持ちになってきた。
(お二人の邪魔をしちゃ悪いよね……静かにここ出ようっと)
出来る限り気配を消して、物音を立てずに宮殿へと続く廊下まで辿り着いたエンジュは、二人の様子が気になってちょっと振り返ってみた。
春のように温かい陽だまりの中、雪のように真っ白な花びらが舞い落ちる下で、寄り添って樹を眺めている聖獣の女王と神鳥の地の守護聖。
それはとても綺麗で、ずっと見守っていたくなるような、不思議な光景――エンジュは昼間から夢を見ているような感覚に陥る。
(お二人は、お互いを大切に想い合っていらっしゃるのね……)
宇宙を隔てていても想い合う、強い絆が感じられる。
それでようやく、神鳥の守護聖達が心配そうにルヴァを見ていた訳を理解した。
聖獣の宇宙が危機を脱してからの彼の笑顔が、それ以前と比べて翳りのようなものを感じられなかった理由も。
「私もあの方と、あんな風にお互いを強く信頼できるようになりたいな……………」
小さく呟いて、エンジュはその場を立ち去る。
あと三日ほどで想い人が聖地に帰ってくるのを、心待ちにしながら――
-Fin-
〜後書きという名の言い訳〜
やはりブログ再録小話で、今回はルヴァコレの絆の強さに憧れるエンジュの話でした。別名『聖天使は見た!!』(笑)
ルヴァコレの持つ、独特の透明感が出てると良いのですが……これが一番書きたいんだけどなかなか表現できてないのですよ(^^;)
エンジュちゃんのお相手は不明です。強いて言えば聖獣守護聖の誰か?楽しんで頂ければ幸いです(^-^)
2007.7.29 UP
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