―世界で一番大切な人―

適度に暖められた部屋の中、暖炉にくべられた薪が時折パチンと音を立てて爆ぜる。
緑を基調としたローブに身を包んだ青年が、赤々と燃える暖炉の前に置かれた揺り椅子に腰掛け、歌う様な声で本を朗読していた。
吟遊詩人として大陸各地を巡っている彼が読んでいるのは、ミッドガルドに古くから伝わる各地の伝承を纏めた本。
彼の膝の上に頭を乗せ床に膝を着いたまま、茶色の髪を高い位置で結わえた少女が青年の優しい声に聴き入っていた。
しかし本がある一節に差し掛かったところで、少女は顔を上げて声をかける。

「ねぇ、セルヴィア様」
「ん?どうかしたかい、クリス」

セルヴィアが彼女を見遣ると、少女――クリスティは蒼穹に似た色の瞳に涙を滲ませていた。

「どうして悲しいお話ばかり残ってるんでしょう?皆、好き好んで不幸になりたい訳じゃないのに………」
「そうだね…悲しい話程人々の心に長く残るからというのもあるだろうけど、誰だって幸せな方がいい。だからこそ幸せが当たり前にあるものじゃないって事を、伝承を通して知っておいた方がいいんだよ、きっと。その分身近な幸せを大事に出来るからね」

クリスティよりも大きな温かい手がとても大切そうに、壊れやすい硝子細工を扱うような丁寧さで優しく彼女の髪を撫でる。
その手の温もりに気が緩んだのか、或いは過去の事を思い出したのか、堪えていた涙が滑らかな彼女の頬を静かに伝う。
セルヴィアはどこか寂しそうな笑顔で、大切な少女の頬を両手で包み込んだ。

「クリス、一人で我慢しなくていいんだよ。辛いことも楽しい事も、悲しいことも嬉しい事も、君が感じたままを言ってごらん」

クリスティは立ち上がって、椅子に座ったままのセルヴィアにそっと腕を回してきた。
表情は見えないがほっそりとした手が震えているのが伝わり、彼女が涙を我慢するのを止めたのだと理解する。
小さく啜り上げ、少女は切実な声で告げた。

「約束、して下さい………今度の生ではアタシを一人置いて死んだりしないって……」
「その事で泣いてたのか……ごめん。置いていかれる苦しみは、俺が誰より知っていたはずだったのに……………」

セルヴィアは自分を柔かく閉じ込めるクリスティの腕に手を置いて瞳を閉じると、誓うようにゆっくりと言葉を紡ぐ。

「今度はずっと一緒に居よう、クリス。死ですら俺たちを引き離せないように」
「はい!ずっとセルヴィア様から離れません!!」

涙を拭いて明るく返事をした最愛の少女を、彼はしっかりと腕に抱きしめる。
彼女の確かな温もりに、じんわりと染み入るように幸せを感じる。

「クリスと一緒に居ると元気が湧くなぁ……うん。二人で幸せになろう」
「アタシがセルヴィア様を幸せにしてあげますね♪」

幸せそうに抱き返してきたクリスティに小さく笑うと、お互いの額をくっ付けて囁いた。

「期待してるよ。クリスは俺にとってお日さまみたいな存在だからね」
「セルヴィア様、だーい好き!」
「おや、クリスは『大好き』なのかい?俺は『愛してる』んだけど……」

前の生よりも見た目の年齢が近くなったせいなのか、小さい頃から兄のように慕っていた人が目の前で拗ねてみせる様子が、とても子供っぽく見える。
それがとても嬉しくて、可愛らしい。
クリスティは最愛の人の頬に小さくキスをして、幸せ一杯の笑顔で言った。

「愛してますよセルヴィア様♪四つの世界全部合わせても、やっぱりセルヴィア様が一番です!!」


-End-


〜後書き〜
うちのサイトの固定CPなのにこれが初めてまともに書いたセルクリSSで、ブログからの再録です(苦笑)
セルクリの持つ独特の透明感が描けていれば良いのですが……。
ともかく、楽しんで頂ければ幸いですv

2008.3.1 UP

ここまで読んで下さってありがとうございます

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