―二人が共に過ごす理由―

カタン、と小さな物音がした。
ぼーっと考え事をしていたセイランが顔を上げて音源の方向にある窓を見やると、丁度ひょっこりと波打つ金髪の天使が顔を覗かせたところだった。
どうやら今日も窓から彼の部屋に侵入するつもりらしい。
この宇宙を統べる女王陛下とは思えないような行動だが、セイランはごく自然に手を差し伸べ、窓から入るのを手伝ってやる。

「またロザリア様の目を盗んで抜け出して来られたんですか?」
「ロザリアは許してくれたわ。今日はちゃんと執務を終えてきたもの。それでも窓から入ったのは、あなたならそうしても怒らないと思ったからよ」

にっこりと笑う彼女の言葉に、セイランは口調をくだけたものに変える。
その方が彼女が自然体でいられるからでもあるが、二人きりで話をしている時くらいはただの茶飲み友達として接したかった。
――実際には、彼女に対して『ただの茶飲み友達』以上の感情を抱いてはいたが。

「なるほどね。まぁせっかくだからお茶でも淹れようか。丁度いい時間だしさ」

時計は午後3時を示している。
午後の執務で頭を使って、そろそろ糖分が欲しくなる頃だ。
アンジェリークも嬉しそうに同意した。

「あ、今日はお茶請けにクッキー持ってきたの。一緒に食べましょう♪」
「全く、君って人は……………この時間を見計らって来たのかい?」
「え?だって…セイランとお茶するの楽しいもの。ロザリアとは良く一緒に飲んでるし」
「それは光栄だね。さ、どうぞ」

アンジェリークの好みに合わせて淹れたお茶を出し、テーブルを挟んで彼女と向かい合う形で座る。
ちなみに自分用に淹れたお茶は、彼女に出したものよりもやや薄めにしてある。

「いつもながらいい香りね。ありがとう」

一口お茶を飲むと何かを思い出したのか、アンジェリークが再び話始める。

「あ、最近は女王候補の二人とも一緒にお茶するようになったわ。そろそろ球体の育成も終わりに差し掛かってるから、もうすぐあなたの所にもあの子たちが来るはずよ」
「ああ……君と同じ名前の栗色の髪の女王候補と、長い金髪の女王候補だね」
「そう。あんまりキツイ事言って泣かせちゃダメよ?」
「それは彼女達次第だね。確かに慣れない試験で大変だろうとは思うけどさ」

もっともと言えばもっとも、容赦無いと言えば容赦無い彼の言葉に、困ったようにアンジェリークは笑う。
彼のところに通うようになってしばらく経つが、見た目のお綺麗さとは裏腹な歯に衣着せぬ物言いに、最初の頃は驚きに目を丸くしたものだ。
最近ではむしろ聞いていて小気味良いと感じてしまうのは、彼に特別な感情を抱いているせいかもしれない。
おそらく彼女の親友であるロザリアは気付いているだろうが、しかしセイラン自身はアンジェリークの想いを知らない。

はぁ……

あれこれ考えて、思わずため息が出る。
女王候補は二人とも、可愛らしい女の子だ。
生徒として、感性の教官である彼と会う機会は多い――女王であるアンジェリークよりも。
二人がセイランに惹かれるかもしれないし、彼が二人の内どちらかに惹かれないとも限らないのだ。

「…リーク、アンジェリーク!」
「えっ?!」
「どうしたんだい?今日は随分と上の空だけど」

セイランの声で意識が現実に戻ったアンジェリークは、どこか気遣わしげな彼の声音に、涙が出そうになる。

「何でもないの………ちょっと、疲れてるだけ」

彼女が安心させようと笑顔を作ってみせると、彼は不機嫌そうな顔で彼女の手を引っ張った。
手加減はしているのだろうが、少し痛い。

「それが何でもないって顔?そんな無理して作った笑顔を見るために、僕は君にお茶を淹れた訳じゃない」
「ちょっとセイラン!何処へ行くの?!」

彼はアンジェリークの手を取ったまま、部屋の出入り口であるドアへと早歩きで近づいていく。

(追い返すつもりなの?そんなの嫌よ…私はまだ、貴方と一緒に居たいのに)

彼に抱く想いを口に出す事もできずに、アンジェリークは何だか哀しくなってしまった。
一緒に過ごすこの時間が大切だと思っているのは、自分だけだったのかと………
ドアの前まで来ると空いた方の手をノブにかけ、怒ってもなお綺麗な顔でセイランが振り返る。

「散歩。君から僕の部屋に来た以上、嫌とは言わせないよ」
「??……どうしていきなり散歩なの?」

いきなりの言動に訳が分からないという顔で訊ねるアンジェリークを見て、彼女の手を取るセイランの手の力が緩む。
それでも手は繋がれたままだったが、アンジェリークは手を通して伝わる彼の温もりをもう少し感じていたくて、あえて離そうとはしなかった。

「気分転換……かな。二人で何か面白い事でも見つけようかと思ってさ」
「ふふっ何それ。でも……………二人で面白いことを探すのは賛成よ」
「君なら面白い事に自分から飛び込んでいきそうだしね」

(僕に偽りの表情を見せて欲しくないしね)

他愛の無い会話をしながら、学芸館を後にする。
二人が互いの想いを伝え合うのは、まだ少し先の話……………


-Fin-

〜後書きという名の言い訳〜
アンジェを実際にプレイする2年程前からこのCP好きだったにも関わらずゲームをやろうとしなかったのは、ずばりリモちゃんでセイランを落とせないからです(きっぱり)とはいえ私はセイコレを否定する気はさらさらございません(^^;)
自分では書けないけど、人様のお話なら読めますよ〜。
これもブログで回答していた『胸キュンバトン』で書いた小話の再録です。

ここまで読んで下さってありがとうございます

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