―不言実行の結末―

アルカディア各地域への視察と、新政府の高官たちや教団・財団幹部たちからの報告を兼ねた会談――それら分刻みで動くはずの多忙なスケジュールを、聖地時間での一日分早く終えた……否、巧みな交渉術で見事纏めて終わらせたニクスは、早々に最愛の女性がいる聖地へと帰ってきた。
最後の会談を終えた時点で既に深夜になっていた為、当初の予定通り宿の手配をしていた政府関係者らに、微笑を湛えて彼は丁重に断ってきたのだ。

「申し訳ありませんが、私はこのまま聖地に帰ることにしますよ。一刻も早く、私の大切な女王陛下のお側に参りたいのでね」

彼と懇意になりたがっていた者達はこの言葉を聞いて、至極残念そうな顔で彼を見送った。

宮殿に入ると、既に知らせを受けていたらしい夜勤警備の騎士の一人から「陛下は既にお休みになられています」と告げられて不在の間の何事も無かったとの報告を受けた。
ニクスは彼に労いの言葉をかけると、自室に戻って休む事にした。
大理石のタイルに赤い厚手の絨毯が敷かれた宮殿の廊下は、アーティファクト教団の開発した火を用いない灯りで足元もよく見える。
女王の私室と補佐官の私室――隣り合う二人の部屋へと続く長い廊下を一人歩きながら、ニクスは思う。

(出掛けに不安そうな顔をしてましたし……そろそろ私が地上へ降りる理由を彼女に説明した方が良いでしょうね。ただでさえ多いアンジェリークの負担を、少しでも軽くしたかったのですが………)

明日の朝話そうと心に決め、辿り着いた自室の扉を開けて明かりを点す。
そしてシャワーを浴びた後、眠ろうと寝室へのドアを開けたその時―――…


てっきり彼女の寝室で眠っていると思っていたニクスの最愛の女王陛下が、彼の寝台の上に横たわっていた。

「……アンジェリーク?」

そっと声をかけてみても反応が無い事から、彼女はどうやら熟睡してしまっているらしい。
ふ…と、ニクスの口元が緩む。
聖地時間では数日だが地上では数ヶ月もの間、逢いたくて堪らなかった大事な恋人………眠る時に寂しいと感じていたのは自分だけではなかった事が、とても嬉しいと感じる。

大きな枕を抱きしめるようにして眠るアンジェリークを起こさないよう、静かにベッドに近づく。
側に来て、彼女の頬に残る涙の跡に気付いた。
見た途端ニクスの胸が小さく痛む。

「私の居ない間に、あなたは泣いていたのですか………アンジェ」

彼女の頬を労わる様に撫でて、唇を寄せる。
そして、眠る彼女が纏う香り――ハーブ石鹸の香りとシーツの残り香が、ニクスの鼻腔を擽った。
シーツからは仄かに、彼が眠る前に付ける香水の香りがした。
ニクスが居ないからといって、教団から派遣されてきた優秀な女官たちが自らの仕事を疎かにするとは思えない。
宮殿に居る人間たちの能力や性格をしっかりと把握しているニクスの中で、ある考えが脳裏を過ぎる。

(まさか……私が居ない夜は、この部屋で眠っていたのでしょうか………?)

その時、アンジェリークの閉じられた瞳から、一筋の涙が頬を伝った。

「う……ん…ニクスさん……行かないで………」
「私の為に、泣いていてくれたのですね………あなた以上に私を捕らえられるものなど、ありはしないのですが……」

ニクスは彼女の隣にそっと潜り込むと、夢の中のアンジェリークの抱く不安が消えるように、しっかりと彼女の体を抱きしめて囁いた。

「愛していますよ…アンジェ。私の全ては、永遠にあなたのものです」

―――その声が聞こえたのか。
アンジェリークの寝顔が幸せそうな微笑みで彩られる。

「私も…愛しています。―――さん…」

今となっては彼女だけが知る、生まれたときに与えられた彼の名前で「愛している」と告げられ、抑え切れない愛しさがニクスの胸に込み上げてくる。
微笑みの形に緩んだ愛らしい唇に、そっと口付けを落として瞳を閉じた。

「ただいま帰りました………おやすみなさい、アンジェリーク……」

その晩、アンジェリークとニクスはとても幸せな夢を一緒にみたそうな………


-Fin-


〜後書き〜
お題部屋の「あともう一言」の続きでニクスさん視点になってます。浮気してた訳じゃないのよ篤志家は(笑)
こういう時にネタのストックあると便利ですねv
ニクスさんが生まれた時にご両親から貰った名前は、彼自身とアンジェしか知りません(宇宙意思は別ですが)
今まで書いてきたニクスさん小話は全て、ニクスさんの事がお好きな方々に一方的に捧げます。
楽しんで頂ければ幸いですm(_ _)m


2007.10.25 UP

ここまで読んで下さってありがとうございます

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