―本当に怖いもの―

私を抱きしめる貴方の腕が、時々震えているのは、私の気のせいでしょうか
月明りの下で私を呼ぶ貴方の声が、涙が出るほど切なく聴こえるのは、思い過ごしでしょうか
私を見つめる貴方の瞳が、何かに怯えているように見えるのは、私の考え過ぎでしょうか


二人きりの部屋に、薄いカーテンを通して月の光が差し込んでいる。
開け放ったままの窓の外から聞こえてくるのは、鈴のように響く虫の音と風の音だけ。
聖地の空気は地上よりも澄んでいて人工的な灯りも少ない為、今宵も星々が美しく瞬いていた。

アンジェリークは後ろからニクスに抱きしめられたまま言葉を交わさず、静かに夜の世界の奏でる音色に聴き入っているふりをしている。
彼女が部屋の窓から夜空を見ていたら、突然無言で抱き締められたのだ。
驚いたアンジェリークは当然彼に声をかけたが、彼はその度に小さく「すみません…」と謝るばかりだった為、気の済むまでニクスの腕の中に閉じ込められている事にした。
恋人でもあるニクスに抱き締められるのは嫌ではないし、むしろ背中に感じる彼の温もりと気配、それに仄かな香水の香りに、胸がときめく。

アンジェリークの動悸は間違いなくニクスにも伝わっているだろう。
普段ならその事を余裕の笑みを浮かべて指摘する彼だが、しかし今夜のニクスはただただ小刻みに震える腕で彼女を抱き締め続ける。
決して寒さによるものではない彼の震えが気になって、でも声をかける事も躊躇われて、アンジェリークは腹部に回された彼の手に自分の手を重ねた。
ニクスの腕の力が、少し強くなる。

「……綺麗な夜、ですね………」

背中から感じる気配から、ニクスの緊張が和らいだのが分かった。

「ええ、本当に………」
「突然こんな事をして、すみませんでした……驚いたでしょう?」
「それは勿論ですけど………話してもらえますか?」

彼が腕を緩めたので、アンジェリークは少し自由になった体を捩って振り向く。
ずっと後ろから抱き締められたままだった為、ニクスの表情が分からなかった。
彼は知らない場所に置き去りにされた子供のような顔で、真っ直ぐにアンジェリークの視線を受け止める。

「……………貴女に、一つだけお願いがあるのですよアンジェリーク」

搾り出すような声は、とても痛々しくて………アンジェリークの方が切なくなる。

「私に出来る事なら……」

どうにかそれだけ言えた彼女に、ニクスはきつく目を閉じて告げた。

「一分…いえ、一秒でも構いません。どうか………私より先に死なないで下さい…どうか、私を一人残して逝かないで下さい」
「ニクスさん………」

それは、二百年という歳月の重さと孤独を誰より知る彼が、本当に最も怖れているもの。
アルカディアを護り導く存在となったアンジェリークにも、未来の事は分からない。
それでも…………………………

「お約束します。ニクスさん一人を置いて死ぬような事は、絶対にしませんから………だから、貴方は私の為にも、生きて下さい。私たちはもう家族なんですから……」

彼の首に両腕を回して引き寄せ、唇を重ねる。
触れるだけの口付けの後、ニクスは微笑を湛えて誓った。

「私は貴女の為に生きましょう……私の可愛い女王陛下」

言い終えるのと同時に、ヒョイとアンジェリークを抱きかかえる。

「きゃ!えっ?あの、ニクスさん!?」
「家族は多い方がいいでしょう?」

どこまでもニクスはニクスだったという話……(笑)


-Fin-


〜言い訳〜
眠いです……………えーと、多分今後篤志家は励みまくる事でしょう(←何をだ)やっぱり難産でした(T∇T)


2007.10.25 UP

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