―銀の意思と金の翼に愛されし者―
| 今年が去年、来年が今年に変わる。 そんな一年で最も特別な夜空にかかる月は、地上の全てを優しく照らしている。 柔かく透き通るようなその光が全てを慈愛の光で包み込む最愛の天使を思わせた為、ニクスは手元の書類から顔を上げたまま口元を緩める。 彼女は今、アルカディアで最も神聖な銀の大樹の下で、この世界に生きる全てのものの幸福を願って祈りを捧げているはずだ。 「もっとも、貴女の放つ輝きは月よりも眩く、温かい光ですけれど……」 女王となったアンジェリークの最も近くに居る事を許された身である彼は、本来なら彼女に同行しているはずだった。 しかし女王の補佐役を任された彼は、アルカディアに女王が誕生した事や教団と財団の力関係が変化した事に関係して、多忙を極める身である。 宇宙意思に挨拶をしておきたい気持ちはあったが、先延ばしに出来ない案件が多々ある為、今回は聖地での書類整理を選んだのだ。 「アンジェリークの事はルネ君やヒュウガに任せて大丈夫でしょうが……エルヴィン君、怒ってますかね」 エレボスとの最後の戦いを終えた後、宇宙意思に女王となる宣言をしたとアンジェリークが告げた時、彼は胸の痛みを感じながらも祝福した。 あの時に彼女と生きる新たな道を『彼』が用意してくれなければ、ニクスは最愛の天使に焦がれ続けたまま普通の人間として生を終えただろう。 今の幸せがあるのは宇宙意思でもあるエルヴィンのおかげだと言うことを、重々承知していた。 「傍には行けませんが、私は貴方に心から感謝していますよ………エルヴィン」 永遠に続くと思われた深い絶望と孤独の中、幾度もエレボスの誘惑に負けそうになった事があった。 その時に、決まってエレボスの強い思念を退けてくれた金色の翼と銀色の光――今にして思えば、あれは生まれる前のアンジェリークの魂と宇宙意思だったのだろう。 自分は決して一人では無かったのだと、今なら思える。 それでも………胸の奥には未だ刺さったまま消えない棘が、硝子の破片のように時折疼く。 「早く………私のところに帰って来て下さい、アンジェリーク……」 ニクスはぽつりと呟くと一瞬辛そうに目を閉じたが、すぐに書類整理を再開した。 彼女が帰ってくる前に、全て終わらせておこうと思ったのだ。 最愛の天使を、すぐに抱きしめられるように……… どれ程時間が経ったのか、ニクスが最後の書類にサインし終えたその時、待ち焦がれた気配が聖地に戻るのを感じた。 ニクスは微笑んで立ち上がり、綺麗な薔薇の絵付けが施された陶製のポットに二人分のハーブティーを準備する。 もしかすると彼女と一緒に、陽だまり邸で共に暮らした猫も久々に訪れるかもしれない。 念のため『彼』の分の皿も使えるようにしておく。 そうしてテーブルの上にお茶の用意が全て整った次の瞬間、彼の部屋の扉が控えめに叩かれた。 「ニクスさん、ただいま帰りました!」 出かけた時には執務用のドレスを着て行ったアンジェリークは、ここに来る前に自分の部屋で普段着に着替えたらしい。 そのほっそりとした腕に懐かしい友を抱いて、ニクスに笑いかけてきた。 「お帰りなさい、アンジェリーク。今ハーブティーを淹れたところですよ……ああ、久しぶりですねエルヴィン。貴方の分もちゃんと用意してありますから、ゆっくりしていって下さい」 「ニャアァーン」 ご機嫌そうに鳴くエルヴィンを床に降ろし、アンジェリークはニクスに勧められた椅子に掛ける。 「エルヴィンったら、久しぶりにニクスさんに会いたいって言って聞かなかったんですよ?」 「ふふ、それは光栄ですね。それではエルヴィンが満足いくまで、私がしっかりとおもてなししましょう」 「ニャア!」 ニクスは結局アンジェリークをすぐに抱きしめる事は出来なかったが、その代わりに、陽だまりのように温かく幸せなティータイムを満喫した。 月と無数の星々に優しく見守られながら……… -Fin- 〜後書き〜 ニクスさんには幸せになって欲しいんだーっっっ エルヴィンにもちゃんと祝福されてるといいなぁ……むしろアルカディア中から祝福されてて欲しい程に彼の幸せを願って止みませんとも!! そんな思いを込めて、ニクアンお好きな方々に一方的に捧げます(*^-^*) |
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