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ある日のこと。
ウェーブかかった長い金髪に紫の瞳を持つ女王候補のレイチェルは、庭園のカフェテラスに来ていた。
彼女の座るテーブルの上には、大きなガラスの器に盛られたアイスクリームがその存在を主張している。
とても一人では食べきれない量のそれを、途方にくれた様子で見ているレイチェルに気付いた者が居た。
「あれ?レイチェル…だよね?どうしたの、そのアイスクリーム!あなた一人で食べきれないよね?」
「あっいいトコに来てくれたねメル!ちょっと困ってたんだよねー聴いてくれる?」
助け舟が来たとばかりに安堵の笑みを零すレイチェルに、メルはもっともな意見を口にした。
「う、うん…でもアイスクリームが溶けちゃうから、食べながら話してくれる?」
内気な彼にしては珍しい――レイチェルは密かにそう思ったが、今は目の前のアイスクリームを片付けるのが先である。
すぐにメルと並んで食べ始めた。
よく晴れた日だった為みるみる内にアイスが溶けていくのを必死で食べ、その合間に二人は話をする。
「ぱくぱく……それでね、あの子に元気出して貰わなきゃ!…って思ってワタシがあの方をこっそりけしかけたの…ぱくぱくぱく………」
「うーんと…それとこのアイスと、どういう関係があるの?……ぱくっ」
流石に大量のアイスに堪えたのか、一旦持っていたスプーンを置いてレイチェルは一呼吸ついた。
「それがねー…今日になってもアンジェリークが落ち込んだままだったから、無理矢理にでも気分転換させようとしたの!そしたらあの方が慌ててすっ飛んできて、あっと言う間に連れてっちゃったってワケ。まだあと一人分残ってるのに………」
「そうなんだ……………って、これ一人分なの!?」
気は強いが優しいところもあるのだと感心していたメルは、聞き捨てならないレイチェルの言葉にアイスを食べる手を止めて、まじまじと盛られた器を見た。
どう考えても、三人分はあると思う量だったのだ。
まだこれと同じものが出てくるのか…メルがそう思っているのが表情から伝わったレイチェルは、慌てて否定する。
「ちっ違うってば!これはアンジェリークと一緒に食べるつもりでワタシが頼んでたので、後から来るのはあの子が先に頼んでたチョコバナナサンデーだよ!!だから一人分というワケ………ぱくぱく…メル、どうしたの?」
アイスを再び食べ始めたレイチェルが目をやると、メルはちょっと嫌そうな顔をしていた。
バナナという単語にその食感を思い出したのだ。
「え?えっとね……メル、バナナがダメなの。だから……………」
「?」
もじもじ顔を赤らめて俯いたメルに、レイチェルがアイスを掬ったばかりのスプーンを持ったまま首を傾げていると――
ぱくっ
「!?」
驚いて目を丸くするレイチェルに、照れた笑みと共にメルは言った。
「えへへ。メルがあなたの分までアイスを食べるから、レイチェルは安心してバナナを食べてね」
「えっ?あー…うん、わかった……」
ぎこちない返事をしながら、レイチェルはアイスの無くなった自分のスプーンを見る。
(これって間接キスって言うんじゃあ……………)
そう思った途端、火が点いたように顔全体が熱くなる。
女王候補に選ばれるまで天才少女として大人に囲まれて暮らしてきたレイチェルは、耳年増ではあったが実際に同世代の人間と親しく接する機会はほとんど無かった。
その結果、訪れた突然の事態に、レイチェルは顔を上げられなくなってしまった。
「あれ?レイチェルどうしたの。耳が赤いけど………熱でもあるの?」
目の前の相手が突然口を閉ざして下を向いてしまった為、メルは心配そうに彼女の顔を横から覗きこむ。
「ななな、なんでもない、なんでもないっダイジョウブだって!」
素早い動きで顔を上げ、またプイッと逸らすレイチェル。その顔は耳まで真っ赤だった。
(うぅ〜っルヴァ様、恨むよ……)
レイチェルはどんな顔をしてメルと話せば良いのか分からず、この状況を作り出す元凶となった地の守護聖に、心の中で恨み言を言った。
ウェイトレスがチョコバナナサンデーを持ってくるまで、天才少女は一つ違いの占い師とまともに話すことが出来なかったという……
-Fin-
〜後書きという名の言い訳〜
ブログで回答していた『胸キュンバトン』の記念すべき初回答小話を再録しましたv
ちなみにレイチェルにこっそりけしかけられて更に数日後、別の誰かにもけしかけられてコレちゃん掻っ攫っていったのはルヴァ様です(笑)
この話の間に森の湖では、必殺ターバン外しが披露されている事でしょうv
私自身読むのも書くのも初めてなCPでしたね〜メルレイは。ほのぼので可愛く書けていれば幸いです(^-^)
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