―滝の前でのお祈りのご利益は…?―

爽やかな朝の空気がはじける、日の曜日の早朝。
小鳥が愛らしくさえずる森の中にある湖の畔の滝の前に、一人の女性が佇んでいた。
青を基調とした裾の長いドレスに白いレースのベールを身につけた彼女は、憂いを帯びた瞳をそっと伏せて、今日も一人滝に祈りを捧げる。

……………あの人は今日も来ないかもしれない。でも、来るかもしれない。
以前のように女王候補や他の者が来たなら、笑顔で挨拶をすれば良いけれど。
もし本当にあの人がやってきたら、どうするの?
この想いを、伝えてしまうつもり?

ロザリアは複雑な想いを抱いたまま、静かに祈り続ける。
すると背後から草を踏み分けて、何者かが近づいてくる音がした。
目を閉じたまま、ロザリアは全身でその気配を感じ取る。
待ち焦がれた気配。
温かい海のように優しく包み込むような……

「ロザリア?貴女もいらしてたのですか。奇遇ですね」

大好きな声に自分の名を呼ばれて、ロザリアは静かに瞳を開いて振り向く。
来てくれた……ただそれだけで、自然と笑みが零れる。

「リュミエール様…お会いしたいと思っていたところですわ」
「おや、貴女も?実をいうと私も、貴女にお会いしたいと思っていたのですよ」

それはきっと社交辞令。貴族社会で生まれ育ってきた彼女にとっては、当たり前のように身近にあったもの。
心の中でそう自分自身に言い聞かせながらも、彼の言葉に高鳴った鼓動は治まるところを知らないようだ。
ロザリアは熱くなった頬を自覚して、少し俯く。
その初々しい様子を愛しそうに見つめながら、リュミエールが口を開いた。

「貴女は僅かな間に随分と美しくなりましたね、ロザリア。ついこの間まで女王候補だったとは思えない程に。あの頃の貴女の一生懸命な姿を好ましく思っていましたが………今は少し、寂しい心地がするのです」
「それは……どういう事ですの?」

ロザリアが彼の発言に顔を上げると、大好きな優しい瞳と視線がぶつかる。
どきん、どきん、と心臓の音が大きくなっていく気がした。

「それほどまでに、今の貴女が輝いている、という事です。一人の守護聖として、共に陛下をお支えする補佐官としての貴女を、心から信頼できる……それは喜ばしい事です。けれど私は時々、貴女のその輝きを独り占めしたくなるのですよ。……今までずっと心の内に秘めてきましたが…ロザリア、私はあなたのことが……好きなのです」
「………」
「…ロザリア?」

リュミエールの目の前で、ロザリアは静かに泣いていた。
彼女の頬を伝う涙が、ぽろぽろと零れゆく。

「私も…ずっとリュミエール様の事を、お慕いしてました……可笑しいですわね。嬉しいはずなのに、涙がどんどん溢れてくるなんて………」

泣き顔を隠そうと両手で顔を覆うロザリアを、リュミエールはしっかりと抱きしめてその耳元に囁いた。

「可笑しくなどありません。ロザリア、もしよろしければ………これから先、貴女の抱える苦しみも悲しみも…涙も、私に受け止めさせて頂けますか?」
「ええ…喜んでお受けしますわ」

ロザリアが溢れる涙をそのままに笑顔で応えると、リュミエールはゆっくりと彼女の頬に顔を寄せ、頬を伝う涙を唇で拭う。
彼の唇が辿った跡が、火が点いたように熱く感じられる。

「愛しています…ロザリア。私の大切な人……」

夢のような心地の中、背中に回される腕の温もりと力強さに、これが現実のものだと分かる。
ロザリアがうっとりと彼を見上げると、今度は唇に口付けられた。
瞳を閉じて、二人はしばしの間、幸せを分かち合う。


しばらくして二人の唇が離れた後、我に返ったロザリアはある事を思い出す。
今日は日の曜日とはいえ、二人の女王候補が相談に来ないとも限らない。
度々彼女達の相談に乗っていたロザリアがリュミエールに告げると、彼はにっこりと微笑んで彼女を軽やかに抱き上げた。

「ちょっ……リュミエール様?!」

真っ赤な顔で慌てるロザリアに、涼しげな顔で彼は言ってのけた。

「送っていきますよ。私の大切な薔薇に悪い虫でもついては困りますから」
「!…だっ誰かに見られたらどうしますの?!!」

ガサガサッ

「おや、リュミエール…とロザリア?!えっ…どうかしたんですかー?」
「ルヴァ様、急に立ち止まってどうかなさった………ロザリア様!一体どうなさったんですか?!」

ロザリアにとってはタイミング悪く、リュミエールにとっては都合良く、やってきたのは地の守護聖のルヴァと栗色の髪の女王候補アンジェリークだった。
リュミエールに姫抱きにされているロザリアを見て、二人は何事かと驚きを露にしている。

(ああ…困ったわ。何て言えばいいのかしら………)

ロザリアが困り果てていると、リュミエールは二人に言った。

「実は………私の不注意で、ロザリアが足を挫いてしまったのです。申し訳ありませんが、早く彼女を手当てして差し上げたいので……このまま失礼させて頂きますね」

人が良い二人は、水の守護聖の言葉にあっさりと信じ込む。

「ああ、そうだったんですかー。ロザリア、どうぞお大事に……陛下には後で私からお話しておきますねー」
「ロザリア様、大丈夫ですか?どうぞお大事に………」

心配そうに見つめる二人に良心の呵責を覚えながらも、ロザリアは「ありがとう、二人とも…」と申し訳無さそうに応えた。


そうしてロザリアを抱きかかえたリュミエールが去った後の森の湖には、地の守護聖と栗色の髪の女王候補だけが残される。

「いやぁ…さっきは驚きましたねー」
「ええ。ロザリア様の足、早く良くなるといいんですけど……」

心底心配そうに二人が去った方を見つめるアンジェリークを、ルヴァは大切なものを見守るような優しい瞳で見る。

「貴女は本当に優しい人ですねー。『雪』というものを、アンジェリークは知ってますか?冬に降る冷たい水蒸気の結晶なんですけど………」


滝の前でのお祈りは、実際ご利益があったというお話………


-Fin-

〜後書きという名の言い訳〜
これもブログで回答していた『胸キュンバトン』で書いた小話再録で、私にとっては初めてのリュミロザです(^-^)
ロザリアはリュミちゃんにお持ち帰りされてしまいました(笑)リュミちゃんったら何て手が早いの!!(爆)
このCPも、何となく好きですv

ここまで読んで下さってありがとうございます

ブラウザバックでお戻り下さい