―終焉―
| 生命力を全て奪いかねない程の、禍々しい負の力が満ちた空間。 アルカディアとは異なる次元に存在するその場に、不気味な『声』が響く。 “ついに手に入れたわ……あとは完全に私と同化するだけ” 巨大な蒼い花を咲かせた異形のモノ―諸悪の根源であるエレボスの本体だ―から伸びる不気味な蔓が、一人の男をがっちりと絡めとっていた。 二百年もの間エレボスの核として利用されながらも、その支配に抗い続けたニクスだ。 彼の精一杯の抵抗も空しく、アーティファクト財団が行ったリース攻撃の際に、エレボスの力はニクスの抑制力を上回ってしまった。 その結果、ニクスは時空の亀裂からこの異空間に引っ張り込まれ、エレボスと完全に同化しそうになっている。 “でも残念ね…同化してしまったら、この二百年間私に抗う事で守ろうとしたアルカディアが滅びるのを見た貴方が嘆き悲しむ姿を見られないのだもの” エレボスが発する『声』はニクスにしか聞く事ができないが、もし彼に意識があれば、おそらく整った顔を激しい嫌悪で歪めていただろう。 憎悪、悪意、虚無、破壊衝動などといった、生きていれば人が誰しも一度は経験する感情が、エレボスを中心としたこの空間に渦巻いているのだ。 “……どうやら退屈しのぎができそうね。さあ起きなさい、私の可愛い操り人形さん…その手で貴方の大切なお仲間を消しておしまいなさいな” くすくすと楽しげに笑うエレボスの『声』に反応して、顔に不気味な紋様が浮かび上がったニクスが目を開ける。 その虚ろな瞳は深い海の色はそのままだが………何ものも映してはいない。 間もなくエレボスとニクスの前に、長い水色の髪の少女とその仲間たちが緊迫した面持ちで現れた。 エレボスに対抗し得る力を持つ少女が、緑の瞳に強い意志を漲らせて叫ぶ。 「絶対に、エレボスからニクスさんを取り返してみせるわ!!」 少女の声に、仲間たちもそれぞれ武器を構える。 最後の決戦の火蓋が、切って落とされた――― 時間の経過も分からない空間の中での激しい戦いの末、ニクスは彼の最愛の少女と仲間たちの元へ戻った。 “本当に私から彼を奪い返すなんて…しかも全ての護り石を揃えていたなんて……まったく。どこまで私の邪魔をするのかしらね、女王というのは………!!” エレボスはニクス以外には不気味な音にしか聞こえない『声』で、憎憎しげに吐き捨てた。 少女たちの巧みな連携攻撃で、エレボスはあと一撃で浄化されるというところまできていたのだ。 それを見て取った少女は毅然と護り石の一つを高く掲げ、心からの祈りを込めて秘められた力を解放した。 「知恵を与え、礎を護りぬく地の力よ。今こそ目覚めて!」 少女の力で攻撃力に変換された膨大な地のサクリアが、光の矢となってエレボスに降り注ぐ……! “おのれ…女王めぇぇぇぇ!!” その叫びが聞こえたのか、仲間の一人に預けられていたニクスが意識を取り戻した。 エレボスが滅ぼされる直前、彼は声には出さずに口だけで何かを言った。 負の感情の塊であるエレボスに向けて、憎しみではなく、心からの哀れみと僅かな感謝を込めて―――… ニクスの声無き言葉に気付いたのは、奇妙な縁で繋がれたエレボスだけ。 エレボスは残された力で少女たちへ反撃を加える事無く、最期の言葉を彼に告げる為に使った。 “ふふ……散々貴方を苦しめてきたこの私に、まだ…そんな事を言えるなんて……ね。どうせなら………貴方の手で滅ぼされたかったけれど…おかげで楽しかったわ……さようなら、優しくて残酷な貴方………” ニクスは浄化の光に包まれて消えゆくエレボスを真っ直ぐに見据え、口を真っ直ぐに引き結んだまま心の中で念じる。 (さようなら、エレボス……この二百年もの間、本当に色々な事がありましたが……………アンジェリークや今の仲間たちに出会う機会を与えてくれた事に関しては、貴女に感謝します………) エレボスの呪縛に捕らわれなければ、平穏無事に生きられただろう。 しかしアンジェリークという最愛の少女に出会うことも、やはり無かっただろう。 そんな思いから、自然と心に溢れ出てきた感謝の言葉。 それは、世界を愛し続けた者から世界を憎しみ続ける者への、手向けの花束だったのかもしれない。 貴女が二度と負の感情ばかりに捕らわれる事の無いよう、世界を愛する事が出来るよう、私は祈っていますよ………世界で誰よりも孤独な、貴女の為に…………… -Fin- 〜言い訳〜 ニクアン前提なエレボス→ニクス話、難産なりにもどうにか書き終えましたー!!長かった…(遠い目) トドメの攻撃に使った護り石が「地の護り石」なのは私の趣味でございます(笑) だって…ルヴァ様好きだから!!(←うちのサイトやブログご覧になってる方は皆様ご存知かと…) 内容については色々とツッコミどころもあるでしょうが、エレボスって考えようによっては悲しい存在だとも思うのですよ。 それが書けていればいいな〜と思います。 2007.10.25 UP |
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