―呪われし逢瀬、あるいは昏き妄執からの誘い―
| 陽だまり邸の自室で寛いでいたニクスは、突如激しい眩暈を覚えた。 足元がふらついて、床に倒れ込む。 深い奈落の底へ落ちていくような感覚には、覚えがある――アルカディアを破滅へ導く為、ニクスの体を核として自らの影であるタナトスを世界各地へと送り込んでいる諸悪の根源、エレボスの気配だ。 (これならまだ悪夢に魘される方が、余程マシだったというのに……) ぼんやりと考えていると『声』が聞こえてくる。 “まだ私と同化する気にならないようね……ふふ…そうでなければ苛め甲斐が無いわ” 側に誰かが居たとしても彼にしか聞こえないエレボスの『声』は、この二百年もの間しばしば、彼の意識を乗っ取ろうと誘惑してきた。 しかも彼のよく知る女性たちの声を模して、精神を弱らせようとしている。 最近になって特にその頻度が増したのは、やはりエレボスに対抗しうる唯一の存在が同じ邸で暮らしているからだろう。 長年探し求めてやっとの思いで見つけた希望の種――芽吹きかけているそれを、彼の手で摘み取らせる為に。 (あなたに……あなたなどに、彼女を殺させはしません!) 端整な顔を苦悶に歪めて発作の激痛に耐えながら、ニクスは強く心に念じた。 深い虚無感に捕らわれそうになるのを、共に暮らす最愛の少女を心に思い描く事で逃れる。 “その強がりがどこまで続くかしらね…『このまま楽になりたい』貴方が数え切れない位そう願った事も、全て私にはお見通しだというのに” エレボスはかつてニクスが愛した歌姫の凛と響く声に似た、しかし遙かに邪悪な『声』で彼の必死な抵抗を嘲笑う。 ニクスにとって大切な思い出を穢され続けてきた事に対して、激しい怒りと憎しみが込み上げてくる。 それはエレボスに力を与えるだけだという事は、この二百年の歳月で実感していたが……… “どこまでも私を拒むのね……それでもいいわ。貴方はいずれ、私のものになるもの。それまでせいぜい抗い続けて私を楽しませて” クスクスと哂う『声』に呼応するように、ニクスの胸を締め付ける発作の痛みが一層増した。 「ぐぅっ…!!」 激痛の余り、抑えきれない声が漏れる。 意識は元に戻ったが、発作は変わらず彼を苛み続ける。 「はぁっはぁっ…ぐっ!うぅ……」 ニクスが床に倒れたままで痛む胸を押さえていたその時―― バタンッ 部屋の扉が大きな音を立てて開かれる。 驚いたように叫ぶ、最愛の少女の声が聞こえた。 「ニクスさん!!大丈夫ですか!!?」 「ア…アンジェ……リーク………」 弱弱しい声でニクスは彼女の名を呼ぶ。 その表情は苦痛に耐えながらも、少女の登場に安堵した様子で……ニクスの少女に対する想いを感じさせた。 その光景を、アルカディアとは異なる次元から、エレボスはじっと見ていた。 “久々の逢瀬を邪魔されたお礼は、いつか必ず返しましょう……女王の卵さん。ふふふふ………あーっははははははは…” 負の力が満ちた空間に、エレボスの哄笑が昏く響いた―――… -Fin- 〜言い訳〜 まさか私がエレボス→ニクスな話を書く事になろうとは……(苦笑) 女の情念は怖いというお話でした(←え、そんな話だったの?) 二百年もニクスさんを核にして影響を与えながらも、屈服させる事が出来なかったら、色々と苛めたくもなるのかもしれません。エレボスってドS…(ボソ)ニクスさんに対しては、ある種の執着が生まれたのかもしれませんね。 ダークな内容だと思いますが、楽しんで頂ければ幸いですm(_ _)m 2007.10.25 UP |
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