―頑張り屋の君に、ひとときの休息を―
| 「なぁレイチェル。あんたが忙しいのはよぅく分かってんのやけど……ちょっとだけ俺に時間くれへん?」 『この通り!』と両手を合わせ、聖獣の炎の守護聖であるチャーリーは真剣な表情で、同じ聖獣の宇宙に属する金髪の有能補佐官に頼み込む。 彼女が理由を訊ねても、彼は「それはまだ教えられへん」の一点張りで話そうとしない。 丁度レイチェルが食事と書類の整理を終えて一息つこうとした時だった為、そんなに時間がかからないなら…という条件で彼の誘いに応じる。 するとパッと顔を輝かせたチャーリーはレイチェルの、杖を握っていない方の手を取って歩き出した。 「どこに行くか教えてくれない?」 「ん〜?ま、歩いていけるところやな。聖地の中やから……それでもちょっと時間かかるかもしれんなぁ。あ、陛下に前もってお許しは頂いてるで、その辺は安心してや?」 嬉しそうなチャーリーの笑顔を見ると、レイチェルはそれ以上何も言えなくなる。 繋がった手から、彼の笑顔と同じ温もりが伝わってくる。 その久々の感触に、そういえば彼が聖獣の宇宙の守護聖となってから今まで……聖天使の働きのおかげでこの宇宙の危機が去ってからも、お互いに忙しくてゆっくりデートも出来なかったのだったと、今更ながら思い出す。 これが平日ならば『人前で手を繋ぐなんて恥ずかしい!』と抵抗したかもしれないが、今日は休日なので宮殿に詰めている者も少なかった。 まして、今はお昼過ぎ。 二人は人気の無い宮殿の廊下を、出入り口に向かって手を繋いだまま歩いていた。 二人が廊下の曲がり角に差し掛かったその時。 丁度曲がってきたある人物が、のんびりとした口調で声をかけてきた。 「おや、お二人ともこんにちはー」 「あ、ルヴァ様こんちはー!今来はったんですか?」 「こ、こんにちは……」 人と遭遇した為、レイチェルは慌てて手を離す。 幸いルヴァには気付かれなかったようだ。 彼は困ったように笑ってチャーリーの質問に答える。 「ははは…そうなんですよー。最近忙しくて……今日こちらに来られただけでも、運がいいのかもしれませんね〜」 「さっき陛下にお会いした時えらい首長ぅしてはりましたから、早ぅ行って差し上げて下さいな」 「ええ……………おや?」 チャーリーの言葉を聴いて嬉しそうに微笑んだルヴァが、レイチェルの方を見て何やら首を傾げた。 彼が何事かを言う前に、チャーリーが慌てた様子で口を開く。 「ああっルヴァ様!これから俺ら、しばらく用事で出かけてきますんで……その間陛下の事、よろしゅう頼みます」 「……ああ、なるほど…分かりました。しっかりとお預かりします」 ルヴァはそのまま恋人の待つ宮殿の奥へと歩を進め、レイチェルとチャーリーは再び歩き出す。 レイチェルは何だか自分だけ置いていかれたようで面白くなかったが、チャーリーが行く先に何かあるのだろうと思い直し、そのまま付いていく事にした。 外に出ると、室内の明るさに慣れた目に太陽の光が少し痛い。 宮殿の出入り口の前には、馬車が一台待っていた。 それに二人で乗り込んだ後、レイチェルは目隠しをされる。 驚く彼女に、チャーリーは安心させるように抱きしめて囁く。 「ちょっとだけ我慢してや。着くまでに場所知られる訳にはいかんでなぁ」 「………なんでそうまでして、行き先教えたくないわけ?」 「それも後で分かる。せやから今は俺を信じて欲しい」 「いいけど……………着くまでの間だけ、このまま寝かせてくれる?」 「ああ…着いたらちゃんと目隠し外して起こすから……………しばらく休んどき」 規則正しく揺れる馬車の動きが、まるで揺りかごのよう…… 目を瞑ってそんな事をぼんやり考えている内、レイチェルはすっかり眠ってしまった。 日頃の疲れの為か熟睡している彼女をしっかりと抱きしめ、チャーリーは恋人の頭を微笑みながら優しく撫でる。 自分以外聞く者も無い馬車の中で、小さく呟いた。 「馬車で聖地一回りしてから着いた先が宮殿やなんて……後で俺、レイチェルに怒られてしまいそうやな〜」 実は、創世の危機に陥ってから今日までずっと頑張ってきたレイチェルを労う為、彼女の親友でもある聖獣の女王と聖獣の守護聖たちが自分たちでささやかなパーティーを催すのだ。 ルヴァは恋人である聖獣の女王から、その話を聞いていたのだろう。 宮殿の廊下で鉢合わせた時に『何故主役を連れ出すんですか?』と言わんばかりの顔をしていた。 今頃宮殿では、チャーリーを除く聖獣の守護聖たちと聖天使が、会場となる部屋の飾り付けを行っているだろう。 「あんたは女王候補の時から頑張り過ぎや。もうちょっと俺ら…いや、俺に、頼ってくれたらええのになぁ………」 それが彼女のいい所でもあるのだろう、とも思いながら。 チャーリーはパーティーが始まるまでのしばしの間、愛しい少女を独り占めできる幸福を味わっていた―― -Fin- 〜後書きという名の言い訳〜 2007.7.29 UP |
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