―戦友と書いて『とも』と読む―
| 聖獣の女王の私室へと入っていくルヴァの背中を見送った二人は部屋を閉ざし、謁見の間で残りの守護聖達が来るのを待つことにした。 レイチェルは閉ざされた扉に手を触れたまま、不安げに俯いて肩を震わせる。 「アンジェ…」 その時、アンジェリークの部屋に入ったルヴァの司る地のサクリアが、女王の私室から螺旋状に立ち昇り、ゆっくりとこの聖獣の宇宙全体へと広がっていくのが感じられた。 もしかするとこれでアンジェリークが目覚めたかもしれなかったが、久々に逢う恋人達の邪魔をする気にはなれない。 女王の私室に繋がる扉に額を当てて、祈るような姿でレイチェルはぽつりと呟く。 「……何で、こんなに悔しいのかな………」 二人しか居ない広い石畳の謁見の間で、さほど距離が離れていた訳でもなかった。 それゆえ彼女の漏らした言葉は、アリオスにはっきりと聞こえただろう。 だが、彼は何も言わない。 レイチェルも、それ以上何も言わなかった。 二人の居るだだっ広い空間を、沈黙が支配する。 親友の私室に繋がる扉をぼんやりと見つめている内、視界が涙で滲んできた。 悔しさなのか不安なのか、或いは寂しさなのか………自分でもよく分からない感情で胸が一杯だった。 他に誰もおらず一人で居たなら、そのまま泣いていたかもしれない。 けれど、今は隣にアリオスが居るのだ。 先ほどベールを外していた事を少し後悔しながら、レイチェルは気付かれぬようにそっと涙を拭う。 「………」 ぎゅっと目を瞑って俯いていると、突然何かが頭上からかぶせられた。 それが先程までアリオスの着ていたロングコートだと気付いて彼の方を向こうとしたが、頭に載せられた大きな手に阻まれる。 「…いいから。他の連中が来る前にその顔直しとけ」 「それ、どういう意味?ワタシがそんなに酷い顔してるって言うの?!」 レイチェルは言い返しながらも、ぶっきらぼうな物言いの中に彼なりの優しさを感じ取った。 深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、動揺していた彼女に普段の判断力が戻ってくる。 「……あいつにとって、お前もルヴァも、大事な奴には違いないだろ」 先ほど彼女が漏らした呟きに答えるような言葉に、目を伏せる。 アリオスが言った事は、彼女自身十分過ぎる程理解していた。 それでも……………………レイチェルはルヴァが駆けつけるまでの、アンジェリークの様子を思い返す。 休憩時間だった為少しばかり邪魔なベールを外したレイチェルが、お茶の用意を終えてアンジェリークを呼ぼうとした矢先―― 中庭の方からぐったりした様子の親友を抱えて歩いてきたアリオスを見て、目を疑った。 「アナタ………アリオス!陛…アンジェはどうしたの!?」 すぐに深刻な事態に気付いて詰め寄るレイチェルに、彼は厳しい顔で状況を説明した。 「中庭でいきなり倒れた。俺に『お願い、エトワールを守って』と言い残してな……」 「!……分かった。ともかく詳しい説明は後で聴くから、アンジェをベッドに寝かせてあげないと…こっちに来て」 「ああ」 レイチェルはアリオスを案内する途中近くにいた研究員に、直ちに神鳥の聖地へ知らせるよう指示を出した。 慌ただしい足音が廊下に響く中、二人は謁見室の奥から続く部屋へとアンジェリークを連れて入っていく。 寝室へのドアは両手が塞がっているアリオスに代わってレイチェルが開けた。 レイチェルがアンジェリークのティアラとベールを外し、二人一緒にアンジェリークをベッドに寝かせる。 枕元にしゃがみ込んで必死にアンジェリークを呼ぶレイチェルは、突然椅子に座らされた。 アリオスが近くに置いてあった椅子を、ベッドの側に持ってきたのだ。 「!?」 「とにかく座れ……そのままの体勢は疲れるだろ」 「…アリガト」 小さくアリオスに礼を言い、再び気を失ったままのアンジェリークに視線を戻して、しっかりと手を握り締める。 レイチェルは苦しそうな表情の親友に、何度も何度も呼びかける―― 「アンジェ、アンジェッ!お願い、しっかりして!!」 「ぅ…」 何度目か分からないレイチェルの必死な呼びかけに、アンジェリークは小さく声を漏らす。 何か言おうとしているようだ。 「何?」 優しい声音で問いかけると、つぅ……と一筋の涙がアンジェリークの頬を伝う。 「…さま……ルヴァ…さま………」 その悲痛な呼び声に、何も言えなくなった二人は顔を見合わせる。 すぐに連れて来ようと二人が部屋の外に出た丁度その時、本人がここに到着したという訳だ。 もしあの時ルヴァとレイチェルの立場が逆だったら、アンジェリークはどうしただろうか…… そしてレイチェルは迷いが晴れた笑顔で、アリオスにはっきりと自信を持って答える。 「分かってるよ。あの場に居たのがワタシじゃなくルヴァ様だったら、きっとあの子はワタシを呼んでたって!」 「言われるまでも無い………か。似合わねぇおせっかいなんて、するもんじゃねえな…あのお人好しな二人に感化されたのか?」 「フフッそうかもしれないね」 バツが悪そうに頭を掻くアリオスのまんざらでは無さそうな表情に、レイチェルは彼が本当に信頼できる仲間だと感じる事が出来た。 「それはそうと、俺に出来る事があるなら力を貸すぜ。あいつらには……………随分色々と、心配かけちまったからな」 「ム!ワタシだって心配してたんだけど?!でも………ありがとう。ワタシは聖地を離れられないから、アナタに色々動いて貰えるとホント助かるよ」 「レイチェル…だったよな。これからよろしく頼むぜ」 「こっちこそヨロシクね、アリオス!」 この後神鳥の聖地から、聖獣の宇宙の危機を救う、もう一人の心強い味方がやってくる…………… To Be Continued 『アンジェリーク エトワール』
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