―天文学的遠距離恋愛な二人のお話―

聖獣の宇宙を統治する女王であるアンジェリークには、遠く宇宙を隔てて想い合う恋人が居る。
まだ彼女が故郷の宇宙で女王となる為の試験を受けていた頃からひたむきに想い続けていたその人と、女王となって遠く離れてからも紆余曲折の末に想いを通じ合わせ結ばれる事が出来たのは奇跡に近いだろう。
それだけに、先程その恋人から聞かされた七夕に纏わる伝説の二人が、自分達の事のように思えてしまった。
話してくれた彼も思うところがあるのか、少し複雑そうな表情を浮かべている。

「二人は……一年に一度しか逢えない事を、不満に思わないんでしょうか…」

アンジェリークが俯いて悲しそうに呟くと、並んでソファに座っていた恋人が優しい手つきで頭を撫でた。
不思議なもので、大好きな彼にこうされるといつも不安が解けて心が浮き上がってくるのだ。
自分がどれだけ彼に心囚われているのか改めて実感し、アンジェリークの頬が少し赤くなる。
それに気付いているのかいないのか、恋人は優しいグレーの瞳を彼女に向け、穏やかな微笑で話を続けた。

「不満はあったかもしれませんね。もっと逢いたい、出来れば一緒に暮らしたいと、きっとそう思ったでしょう。………私も、出来ればそうしたいですからねー」
「!……ルヴァ様も…ですか………?」

創世の危機と呼ばれた聖獣の宇宙の危機は乗り越えたが、まだまだ成長段階の宇宙においては様々な問題が発生する。
アンジェリークとルヴァの関係は両宇宙の聖地において暗黙の了解であり公然の秘密なのだが、宇宙の女王とサクリアを司る守護聖の一人という二人の立場的に宇宙で何らかの問題が発生した際にはそちらを最優先しなければならない事実に変わりは無い。
基本的に執務が休みとなる土の曜日と日の曜日に逢う事が許される二人だが、先週は聖獣の宇宙でちょっとしたトラブルが起こって次元回廊が使えず、デートの約束が守れなかったのだった。
後でアンジェリークからメールを送ってお詫びと事情説明はしていたし、ルヴァの方も理解していたのだが、二つの宇宙を繋ぐ次元回廊のおかげでさほど意識せずに居られた二人の物理的な距離を改めて思い知ったのである。
………もしかしたら今日ルヴァが七夕の話をしたのは、今日の日付が七月七日というだけでは無かったのかもしれない。

パッと顔を上げたアンジェリークと目を合わせたルヴァは、「でもね…」と苦笑交じりに続けた。

「それでも二人は、不満を漏らさず働いていました。一年に一度、たった一日だけ逢えるその時を心待ちにしながら………引き離される事になったのは悲しかったけれど、二人は自分の役割の大切さを理解したという事だと思いますよー」

彼女が知る限りでは、彼は自分の役割を疎かにする事にあまりいい顔をしない人だから、先程の言葉も理解は出来た。
しかし感情的には織姫と彦星の二人をやはり他人事のようには思えず、アンジェリークは躊躇いがちに問いかける。

「なら……二人は今、幸せなんでしょうか?」
「貴女が今幸せだと感じてくれているなら、私は幸せですよアンジェ」
「!!」

心の中を見透かされた様な答にアンジェリークの顔が林檎のように赤く染まる。
その反応を見て満足したのかにっこりと満面の笑みを見せるルヴァをアンジェリークが睨みつけるが、真っ赤になった顔では迫力も無く、そのままルヴァに抱きすくめられてあっけなく腕の中に納まってしまった。

「まあ、伝説の二人は新婚夫婦でしたからね。可愛いお嫁さんを貰って仲睦まじかったら、そりゃあ確かに仕事そっちのけにしたくなるのも分かります。ええ。私も男ですから、気持ちはよく分かります」
「え?……ええぇっっ!?二人が仕事そっちのけで遊んでたって…そ、そういう意味だったんですか?!!」
「やはり伝説として美しく、生八橋に包んだ表現にした方が子供に聞かれた時に困らなくて済みますからねー。その辺も事情は理解できますねー」

思わぬ話の展開に慌てふためくアンジェリークをひょいっと抱き上げると、ルヴァはすたすたとある方向へ歩いていった。

「るっ、ルヴァ様!?そっちは寝室ですけどっっ!!?」
「そうですねー。伝説の二人ほど私たちが羽目を外しちゃったら、一年どころか永久に逢えなくさせられるでしょうけど、執務に影響しない範囲ならきっと大丈夫でしょう」

意味有り気に笑いかけてくる恋人の姿に、アンジェリークは観念したように小さく溜息をついてから両腕を彼の首に絡ませる。

「………お手柔らかにお願いしますね」
「はい」

-Fin-





〜言い訳〜
今日中に更新できるか分かりませんでしたので、ブログの方で先に書いてたんですが間に合いましたね(汗)
最初はもっとほのぼのかつしんみりした感じのお話になるはずでした。
織姫と彦星は逢えない間一生懸命仕事して、一年に一度たった一日逢えたその時は全力で喜んでるからちゃんと幸せなんだという事を書きたかったはずなんですが、何かおかしな方向に行ったのはルヴァ様のせいです。
言い訳としては、このルヴァ様はまだ書けてないルヴァ様視察中の話で覚悟完了一歩前くらいまで出来た後のルヴァ様だからって事で。吹っ切れてるというか覚悟を決めてるから、七夕の伝説はルヴァ様にとっては自戒の意味を持ってる。
覚悟完了してないのは、実際にルヴァ様が守護聖交代の時期を迎える時に初めて覚悟完了するものなので。
それまではコレちゃんの退任が先になる可能性もゼロでは無いので、あくまで仮定に過ぎないのです。
実際にその時が来てから慌てるのではなく、可能性を考えて日頃から備え、根回しもしておくのがうちのルヴァ様です。
故に日頃の行いは良いし、両宇宙の聖地関係者達との信頼関係も築いている。例えばコレちゃんが先に退任の時期を迎えた場合、ルヴァ様とそのまま結婚する事になっても特に反対も出ず普通に祝福されるレベルで。
二人の将来を真剣に考えていればこそ、日頃の行いと根回しの重要性が理解できるのではないかと思います。

いや別に私がリアルで何かあった訳では……(汗)


2013.7.7. UP

ここまで読んで下さってありがとうございます

ブラウザバックでお戻り下さい