―めぐり逢えたら―

神々の尖兵(エインフェリア)としての生から解放されたフィレスは、ディパン王女として生きていた頃から馴染みの深い、ゾルデの町の教会へと足を運んだ。
神々の襲撃を受けて壊滅したディパン本国から多くの人々がこのゾルデの町へ逃げ延びてきていて、街中がごった返していた為である。

「……この教会は、昔とほとんど変わらないのね」

フィレスが一人の人間として生きた、およそ二百年ほど昔の時代から。
色鮮やかなステンドグラスから差し込んでくる午後の光が、静かで厳かな雰囲気の教会内を照らす。
国を失ったディパン出身の女性が神々の怒りを鎮めるべく、彼女の目の前で静かに祈りを捧げていた。

「……………結局アタシは二度も、故郷を神々に奪われたのね」

一度目は、彼女の嫁ぎ先であり第二の故郷ともいえるパルティア公国。
二度目は、彼女の生まれ故郷であるディパン公国。
目の前の女性は知らないだろう。
彼女の祈りの対象であるアース神族の主神オーディンが、他ならぬミッドガルドの争いの元凶である事を。

フィレスは軽く唇を噛んだ。
心を静めようと、左手で髪飾りに触れる。
エインフェリアとなった彼女が神々の横暴に激しい怒りを感じた時や、不安を感じた時の癖になってしまっていた。

(……シフェル…)

彼女が愛用している髪飾りの贈り主、今はもうこの世には居ない伴侶の笑顔を思い出す。

『フィレス…誕生日おめでとう』
『うふふっありがと♪こんな戦続きの状況でも覚えててくれたのね』
『まあね。このプレゼント、気に入ってくれると嬉しいけど……』
『なになに?……あら、髪留めね』
『うん。時々髪を鬱陶しそうにしてたからね』
『ありがとう!大事に使わせて貰うわ』

フィレスが髪留めをつけて笑顔で礼を言うと、シフェルは蒼穹を思わせる色の瞳を嬉しそうに綻ばせた。
あの時は一年戦争の真っ最中で、既に二人は婚約していた状態ではあったが、お互いに戦場でいつ命を落とすか分からぬ状況だった。
二人だけの供を連れて各地の戦闘に参加しては、ロゼッタに対抗する為各国の有力者達に同盟を持ちかけていたフィレスを、彼はどれ程心配しただろう……

「アタシは本当に、貴方に心配かけ通しだったわね………」

彼の魂は今頃、世界のどこかで転生しているだろう――解放の際、フィレスをエインフェリアとして選定した戦乙女・シルメリアがそう告げた。
もしこの時代に生まれてきていたとしても、彼はシフェルだった頃の記憶はないだろうとも。
『これから先、前の生のように生きるのも新たな生を生きるのも、あなたの自由よ』
これはシルメリアの言葉だ。

(転生体に出会えても『シフェル』である事を押し付けるつもりは無いけれど……今度はアタシが貴方を探して追いかける番だと思うから………やっぱり、探すわ)

どうしても、逢いたいから。
既に側に誰か他の人が居たとしても、幸せでいてくれればそれで十分だから。

フィレスは顔を上げ、振り返る事無く教会を出て行く。
新たな生を、全力で生きる為に……………


-End-


〜後書き〜
最近ブログ再録ばかりですが、やはりブログで書いてたシフェフィレ前提小話です。
果たしてフィレスが本当にシフェルの転生体を探すのか分かりませんが、探す場合はきっとこんな感じかなと。
こちらは『月と太陽』シリーズとは違って、ゼノフィレ要素はありません。

2007.12.22 UP

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